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戦後変格派・山田風太郎―敗戦・科学・神・幽霊 [著]谷口基

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2013年03月17日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■「戦中派」の原罪意識を見抜く

 山田風太郎は多面体の貌(かお)を持つ作家だ。推理、SF、時代、科学、怪談、信仰の分野の小説を書くし、時代を透視する評論なども書き残している。その多面体の貌をひとつひとつ丁寧に解説、分析した労作である。
 著者はくり返し語っているのだが、「元医学者山田風太郎、しかしその魂はあくまでも文学者のものだ」「風太郎文学における歴史認識の基準にはまず、『太平洋戦争』がある」「山田風太郎の文学にみられる反近代、反科学の思想は、合理主義対精神主義の二元論的世界観に基づくものではない」と、自らが分析するときのその文学観、歴史観を明らかにしている。その記述は鋭く、説得力のある文体だ。とくに関心が持たれるのは、本書のタイトルの通り、日本の探偵小説が戦前には、本格派と変格派に区分できるとの先達の論を冒頭で語っておいて、山田はその系譜では変格派になるのだろうが、しかし現実にはその分け方を超えて〈戦後文学〉の変格派だと訴えている点にある。
 敗戦小説、性的科学小説といった語の用い方や、聖書に材をとりつつ、聖と性を巧みに浮かびあがらせる山田の目に身を寄せて論じる姿勢は、単なる山田風太郎論ではない。著者が山田と同時代に生きているかのように、太平洋戦争やベトナム戦争を論じうるのも、敗戦小説そのものの中に新しい解釈を見いだそうとの意気ごみがあるからだろう。山田は同年代の戦争で逝った仲間たちにどれほど原罪意識をもっていたか、著者はそれを見抜いたのだ。
 戦後のある時期から、山田は忍法小説を書き続ける。一連の忍法帖(ちょう)群は総計で300万部を超えるベストセラーになるが、それぞれの作品はどの時代を背景にしているか、表まで示しての熱意に打たれる。権力者と忍者たちの関係を通して、「戦中派」の「複雑なまなざし」を読みとるべきだとの指摘に共感する。
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 青弓社・3150円/たにぐち・もとい 64年生まれ。茨城大学准教授。近現代日本文学。『戦前戦後異端文学論』

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