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ヒップホップの詩人たち [著]都築響一

[評者]いとうせいこう(作家・クリエーター)

[掲載]2013年03月17日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■切実でリアルな「路傍の現代詩」

 前著『夜露死苦現代詩』の末尾近くで、著者は日本語ラッパーのダースレイダーに取材し、彼の詩を紹介した。いまや多くのラッパーはフリースタイルと呼ばれる即興詩(しかも脚韻を踏む)をリズムに乗せて繰り出し、「からだと直結した言葉」を紡ぐ。
 そうしたラッパーたちの生い立ちと、そこからひねり出される切実な詩の世界を丹念に追ったのが今回の『ヒップホップの詩人たち』である。
 近世までは俳諧や和歌の他に例えば狂歌があり、いわばストリートに匿名の歌が貼り出され、誰とも知れぬ者が社会や人物を嘲笑していた。現代のラップ用語で言えば痛快に“ディスっていた”わけだ。
 しかし文明開化の過程でそうした反抗精神も、他の短詩型の文芸と共に評価を下げられ、特に“地下(じげ)の者たち(庶民)”が作り出す詩の批評性も消えがちになった。
 一方で現代詩が生まれ、優れた詩を世に送り出したが、やがて社会の周縁にいる者の声や、生活や「からだ」からは遠のいた。だからそれを取り戻す現代詩人の戦いも一方では続いている。
 そこに都築響一は15人のラッパーたちをぶち当てる。ある者は麻薬の運び屋、ある者は高校2年にしてオレオレ詐欺にかかわって逮捕され、獄中で詩を生み出す。少年院で筆記を許されず、頭の中でだけ長い詩を“書く”エピソードなどは想像を超える。
 ほとんどが地方で生まれ育ち、東京の洒落(しゃれ)た世界に背を向けた詩人たちだ。彼らは意識的に周縁を選び、そこでリアルな「路傍の現代詩」を、しかも韻の制約があればこそ複雑で新しい日本語として産出し続けている。
 紙の上に長く引用される彼らの言葉の重圧を体験したあとで、是非特設サイトから楽曲を聴いて欲しい。言葉が高いレベルで分節されてリズムに乗り、「からだと直結」しながら社会と自己を撃っている様子に驚くはずだから。
    ◇
 新潮社・3780円/つづき・きょういち 56年生まれ。編集者、写真家。『ROADSIDE JAPAN』など。

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