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児玉誉士夫 巨魁の昭和史 [著]有馬哲夫

[評者]後藤正治(ノンフィクション作家)

[掲載]2013年03月31日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■米国公文書から足跡を探る

 右翼、黒幕、政商……児玉誉士夫に載せられてきた形容である。ロッキード事件の被告となり、CIAとのかかわりも明るみに出たが、いまも実像は霧の中にあり続けている。本書は主に、アメリカの各情報機関が保持する「児玉ファイル」を検索するなかで児玉の足跡に新しい光を当てんとした評伝である。
 戦前、児玉は「鉄砲玉」としてテロ事件を起こして収監されるが、陸軍、ついで海軍航空本部と交わり、大陸で「児玉機関」を設立、物資調達にたずさわった。ヘロインも扱った。A級戦犯容疑で巣鴨プリズン入りするも釈放され、政界に豊富な資金を提供し、戦後政治の節目に裏工作者として介在していく……。
 CIAとは巣鴨釈放の時点から「協力関係」にあったという。米側からすれば、反共の駒の一つであり、「手のひらの上で踊ら」せていた存在だったのだろう。
 戦後、児玉が掲げたのは「自主防衛」であるが、それもお題目であって、占領軍、鳩山一郎、河野一郎……と、時々の権力に吸着することに長(た)けた政商という色彩が濃い。保守政界とのかかわりは続くが、岸信介以降は密度が薄れていく。権力側がもう裏世界の関与を必要としなくなっていったのだろう。
 「…推測の域をでない」「…一枚かんでいたのかもしれない」といった言い回しが随所に見られる。個々の事例で児玉がどう介在したかという確証は、ファイル類からも掴(つか)み切れないからだ。
 読了し、児玉を包む霧は随分薄くなったように感じるが、依然実像は霞(かす)んでいる。あるいは〈実像〉などないのかもしれないとも思う。児玉にとって必要だったのは〈怪物という虚像〉が独り歩きしてくれることであったろうから。晩年は脳卒中の後遺症が残り、「失見当識」であったという。虚空に視線をやったままに逝った、孤独な老人の姿がふっと浮かぶ。
    ◇
 文春新書・987円/ありま・てつお 53年生まれ。早稲田大学教授(メディア論)。『原発と原爆』など。

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