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カールシュタイン城夜話 [著]フランティシェク・クプカ

[評者]松永美穂(早稲田大学教授・ドイツ文学)

[掲載]2013年03月31日

[ジャンル]歴史 文芸

表紙画像

■チェコ宮廷、王と側近らの七夜

 カレル四世といえば、14世紀後半の神聖ローマ皇帝で、ボヘミア王、ドイツ王でもあった人物である。現在のプラハではカレル橋やカレル大学にその名が残る。彼は各国の宮廷に華やかな縁戚関係を持ちながら、チェコ人としての自意識を失わず、プラハをヨーロッパの文化都市として発展させた。本書は、そのカレルが宮廷で毒を盛られて療養生活を送っているときに、忠臣たちと七夜連続で物語を聞かせあったという設定。男だけの集団で、話すのは当然(?)女性のことばかり。そのため、一日三話、計二十一話の物語には、それぞれ女性の名前が冠せられている。
 最初は地名や人名に馴染(なじ)みがなくてとっつきにくかったけれど、途中からどんどんおもしろくなってきた。男女の出会いと別れがバラエティーに富み、人生への洞察に満ちた話が続くから、だけではない。著者自身が第二版のあとがきで書いているように、この本は「女性への愛」だけでなく「祖国への愛」に貫かれている。カレル四世時代は、チェコが当時の先進国の仲間入りをし、飛躍的に発展した時期だ。物語の登場人物たちからも、チェコ人としてのプライドが伝わってくる。
 この本の初版が出版されたのは、チェコがナチス・ドイツに占領されていた1944年。本書は秘(ひそ)かに強制収容所に持ち込まれ、囚人たちのあいだでも回し読みされたという。男たちの無聊(ぶりょう)を慰めるための艶(つや)話、だけではないことがわかってもらえるだろう。
 本書では三人の側近が物語を語るのにつられるように、病人であるカレル自身も語り手の側に参加していく。彼の話からは王家の特殊な家族関係も見えてくるが、そんな王であっても、恋人や妻を思う気持ちは庶民と変わらない。
 すべての物語が語られたあとで、毒殺未遂の真犯人がわかり、意外などんでん返しが待っている。仕掛けたっぷりの、大人の夜話なのだ。
    ◇
 山口巖訳、風濤社・2940円/1894〜1961年。プラハ生まれ。作家・劇作家・詩人。

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