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漁業と震災 [著]濱田武士

[評者]萱野稔人(津田塾大学教授・哲学)

[掲載]2013年04月07日

[ジャンル]社会

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■「上から目線」の改革論を批判

 もしかしたら漁業ほど、東日本大震災後のさまざまな復興論にふりまわされた産業はないかもしれない。たしかに日本の漁業は、大震災によって壊滅的な被害を受けるまえから衰退していた。何よりも担い手の高齢化がとまらない。なかなか漁業だけでは食えず、後継者が育たないからだ。漁業組合も停滞し、いまや補助金なしではなりたたない。水産資源の減少も深刻だ。こうした現状から、漁業は高齢化社会の象徴であり、大震災を契機に再生すべき典型的な産業とされたのである。
 そうした復興論のなかには、たとえば漁獲高をより厳しく制限することで漁業の構造転換を図ろうという提案もある。漁獲高を厳しく制限すれば、漁業者は市場で高値のつく大きな魚を選別して獲(と)るようになり、また乱獲も防げるため水産資源も保全されるからだ。私もかつて本紙で同様の提言をしたことがある。
 しかし筆者はこうした復興論を、現場を無視した「上から目線」の改革論にすぎないと批判する。筆者は言う。日本の漁業はこれまでも漁業者間の利害衝突を繰り返しながら漁獲制限のルールを作り上げてきたし、そうした内発性を無視して外から漁獲枠を強制しても実効性をもちえない。大型魚の乱獲も始まるだろう。そもそも水産資源の減少の原因は必ずしも漁獲の行き過ぎにあるとはいえない。
 筆者の批判は決して漁業の問題だけにとどまらない射程をもつ。事実、今の日本には現状分析をなおざりにし、複雑に絡み合った原因を単純化し、一挙に事態を改善してくれる魔法の解決策をもとめる改革論があふれているからだ。そうした改革論は事態を悪化させることはあれ改善することはない。問題をその複雑さのまま認識する力、そしてその複雑さを解きほぐしながら粘り強く解決策を模索していく思考力。漁業の問題をつうじて本書はそれを私たちに要求している。
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 みすず書房・3150円/はまだ・たけし 69年生まれ。東京海洋大准教授(漁業経済学)。『伝統的和船の経済』

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