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ジョージ・ハリスン コンプリート・ワークス [編]ローリング・ストーン誌

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2013年04月14日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■脇役から脱却、愛され尊敬され

 ジョージ・ハリスンは「静かなビートル」と呼ばれ、ジョン・レノンとポール・マッカートニーの影に隠れた脇役的存在だったが、本書で語る多くの証言者によると彼はむしろジョン的資質に近く、思ったことは何でも正直に口にするタイプで、片方ではウイットとユーモアセンスで誰からも愛され、常に尊敬の対象であった。
 彼は名声を好まず、平和を愛する優しい家庭人であり、ビートルズ解散以後はイングランドの広大な土地の家に住み、晩年は趣味の園芸に没頭する隠遁(いんとん)生活を送った。
 ビートルズ時代、彼をインド哲学に導いたのはLSD体験で、その結果、現実と分離したもうひとつのリアリティーに遭遇したことで神意識を体感する。そしてインドのリシケシュに導師マハリシ・マヘギ・ヨギを他のメンバーと共に訪れ、さらにラヴィ・シャンカールとの出会いが彼をインド音楽に導き、あの傑作アルバム「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」に貢献すると同時に脇役から脱却する。が、すでにビートルズの運命は崩壊の予感にあった。
 とともにジョージの肉体も崩落の危機にあり、喉頭癌(こうとうがん)、離婚、暴漢の襲撃、ビジネス問題など悩みの種は山積。それでも信仰に支えられた強い信念によって現実と対峙(たいじ)する。また彼の精神世界への傾倒は1960年代の若者にスピリチュアルな世界を示唆したが、一般的にはこのような傾向はうさん臭く見られた。
 しかし、ボブ・ディラン、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、エルトン・ジョンらの大物がジョージの人間性と音楽観を尊敬しながら誠実かつ謙虚に、手放しで絶賛する。ぼくが二十代でインドに憧憬(しょうけい)したのもジョージの影響が大だった。やがてぼくは精神世界からドロップアウトしたが、彼はその短い生涯にインドを内在化させ、神との距離を最後まで維持した。
     ◇
 大田黒奉之訳、TOブックス・5040円/ジョージ・ハリスンは1943年生まれ、2001年死去。

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