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カール・シュミット入門講義 [著]仲正昌樹

[評者]水野和夫(日本大学教授・経済学)

[掲載]2013年04月14日

[ジャンル]経済 社会

表紙画像

■「決断」の真意、例外状況の今こそ

 もし今生きているとしたら誰に現在の状況を診断してほしいかといえば、カール・シュミットである。彼の著作や論文は数多くあるが、独特の文体や教養の深さなどを考慮すると、読者自らがシュミットの著作を読んで、彼が下したであろう21世紀の診断を推察するのは至難のわざだ。
 しかし、本書が出たことでシュミットの「例外状況」「決断主義」「独裁」論などの背後に潜む哲学や世界観に迫ることができるようになった。難解なシュミットの著作を原典にあたりながら、例えば有名な「主権者とは、例外状況にかんして決定をくだす者をいう」というわずか1行に関して、著者は詳細でかつ説得的な解説を行うなど、シュミットの翻訳書を読んだだけでは気づかない点を知らしめてくれる待望の書である。
 「何が普通なのか?」を、誰かが改めて決めなければならないような「限界状況」でこそ、「主権」の本質が明らかになるとのシュミットの考えは経済でも通用しそうだ。通常の経済では想定していないデフレに陥った今こそ資本主義の本質を考える絶好の機会なのに、日本銀行は市場へ流すお金の量(マネタリーベース)などを「2倍、2倍、2倍」と唱えて問題の本質から目をそらしている。
 「秩序」をなによりも重視するシュミットは、国家を成り立たしめる根源的な法秩序よりも深い、本質的な秩序の「層」があると考える。だから、その秩序を裏付ける、何らかの究極の「実在」を中心とする世界観を問題にする。
 例外状況が相次いで現出しはじめている21世紀にこそシュミットが生涯を通じて考え抜いた、究極の実在に迫ろうとする哲学的思考が不可欠なのに、安易に「決断」を口にする政治家が多い。こうした風潮に著者は憤慨しているが、評者も同感である。今の政治家の決断の背後にあるのは、シュミットの思索とは似て非なるものだからである。
     ◇
 作品社・2100円/なかまさ・まさき 63年生まれ。金沢大学教授。『今こそルソーを読み直す』など。

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