佐伯一麦「還れぬ家」書評 小説の時間も押し流された
評者: 朝日新聞読書面
/ 朝⽇新聞掲載:2013年04月14日
還れぬ家 (新潮文庫)
著者:佐伯 一麦
出版社:新潮社
ジャンル:一般
ISBN: 9784101342160
発売⽇: 2015/10/28
サイズ: 16cm/573p
還れぬ家 [著]佐伯一麦
父が認知症になり、早瀬光二は妻とともに頻繁に実家を訪ねる。同じ仙台に住みながら、父母それぞれとの間に確執を覚える早瀬は、父の症状が進むにつれストレスから心身の苦しみに襲われる。「父が生きているうちに」と、小説「還れぬ家」の連載を始めて間もなく父は亡くなり、その死までを同時進行の形で書いていた途中に3・11の大震災で「小説の中の時間も押し流されてしまった」。父母との、そして自分の過去との和解の時は訪れるのか。「還れぬ家」で描こうとしたことは、震災・津波・原発事故の影響を大きく受けざるを得なかったが、そのことがまた巧まざる同時性を帯び、時代との交信を媒介する「作家」を浮かび上がらせる。
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新潮社・2415円