書評・最新書評

世界で一番美しい名画の解剖図鑑 [編著]カレン・ホサック・ジャネスほか

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2013年04月21日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■私たちは絵の何を見ている?

 展覧会場で絵を前にした時何を見ますか。色、線、形ですか。それとも構成? また物語ですか。いや作者の人生? やっぱり図像学的知識への関心? 私たちはこのような様々な要因を総動員して何とか「わかろう」と、絵に食らいつこうとする。結果は言語と感性がせめぎ合うだけで答えが出ないまま次の絵に移る。
 絵を前にするとテストか禅の公案を与えられた気分になるのは、全て頭の作用の結果だ。絵を言語で読み解こうとするから「わかる」「わからない」という迷妄の世界に墜(お)ちてしまう。
 「わかろう」とする以前にどうして「見る」ことに徹しないのか。絵の前で近づいたり離れたりする行為は、まるでアイフォーンで絵をクローズアップして見ることに似ている。本書はそんな鑑賞者の行為をなぞるように、一枚の絵を断片にばらしてクローズアップで紹介する。拡大された部分に私たちは何を見るのか。そこにあるのは物質としての絵の具のかたまりや筆跡でしかない。これはもはや絵ではない。絵かもしれないが抽象形態としての色の痕跡のようなものだ。そう考えるとどんな写実的な絵も抽象の累積にすぎない。つまり私たちが見ているのは図像としてのイメージではなく単に絵の具であることに気づく。
 本書は千年前の中国絵画や中世のジョットから現代のキーファーまで、絵画の部分トリミングによって視線をミクロ的部分に釘付けさせる。そこには芸術的美術的感動も精神性も物語性も何もない。
 例えばジャスパー・ジョーンズの星条旗の絵を見る時、私たちは眼(め)を皿にしてその部分を見る。その時、星条旗は眼に入らない。眼に映るのは表面のマチエールである。本書のモネ「睡蓮(すいれん)の池」やレンブラント「自画像」も同じ。本書は「絵でない部分」をじっくり見ることでちゃんと絵画の見方を示唆してくれている。
     ◇
 菊田樹子・保田潤子訳、エクスナレッジ・3990円/英国で美術史の教育や著述に携わる3人による編著。

関連記事

ページトップへ戻る