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永山則夫―封印された鑑定記録 [著]堀川恵子

[評者]出久根達郎(作家)

[掲載]2013年04月28日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■100時間のテープ、心の闇に迫る

 同世代の犯罪者として、評者はこの人に無関心たりえない。裁判での死刑の基準は、彼に下された判決を拠(よ)り所にしている。「永山基準」だ。
 昭和43年、通り魔による連続4件の射殺事件が起こった。被害者は一般市民である。5カ月後、犯人が逮捕された。19歳の永山である。
 彼は極貧に育ち、中学を卒業すると「集団就職」の一員として上京、働きながら夜学に通う少年だった。金ほしさの犯罪ではない。しかし彼は何も語らなかった。生い立ちや劣悪な家庭環境が報道され、貧困が原因の犯行と断じられた。
 評者は永山より6年早い中卒の集団就職者だが、この事件でずいぶん世間から白い眼(め)で見られた。高度成長の時代で、貧乏が強調された。新藤兼人が事件に材を取って、「裸の十九才」という映画を作った。やはり貧困が根底にある。それと幼時に別れた母親の存在を主題にすえたのが、新藤らしかった。
 永山は昭和46年、獄中ノート『無知の涙』を出版、貧困が無知を生むのでなく、資本主義社会が形成すると言い、犯行は自殺するため計画的なもの、と告白した。
 『無知の涙』には、「金の卵たる中卒者諸君に捧ぐ」と副題がある。集団就職の中卒者は、経済成長期に貴重な働き手であったから、「金の卵」とはやされたのである。永山に捧げられた評者も読んだ。彼の告白を唐突に思い、真意がわからなかった。計画的犯罪の意味も、自殺の踏み切り板の理由も、全く理解できない。
 謎がとけたのは本書のおかげである。著者は永山事件を取材中、裁判で採用されなかった、百時間を超える精神鑑定のテープを入手した。なぜ今まで封印されていたのか。鑑定書を起草した精神科医の葛藤と、永山の複雑な家族関係、心の闇など、著者は絡みあった糸を丹念にほぐす。推理小説の結末さながら、最後のページまで息が抜けない。
    ◇
 岩波書店・2205円/ほりかわ・けいこ 69年生まれ。ジャーナリスト、フリーのディレクター。『裁かれた命』など。

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