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それでも彼女は生きていく― 3・11をきっかけにAV女優となった7人の女の子 [著]山川徹

[評者]赤坂真理(作家)

[掲載]2013年05月05日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■〈家族〉と〈企業〉が壊れた世界で

 東日本大震災から4カ月ほどのある日、ルポライターの著者が現地でこんな噂(うわさ)を聞く。「被災した女性たちが上京して風俗やAV(アダルトビデオ)で働き始めている」。ここで著者は戦前の東北の〈娘身売り〉を想起した。戦前に東北では貧困ゆえに娘を売った、という話を。
 「震災がなければAVの仕事をしなかった」という7人の女の子も聞き手も、ゆるいと言えるほど今風だが、視点に射程の長さがある。そして、つい遠い昔のことと思いがちな〈娘身売り〉の時代は、昭和でありほんの80年前なのだと気づくとき、ある深い理解がやって来る。日本という国は、大戦の痛手から「ちゃんと復興」しないうちに、大きな人災と天災をいくつも浴びたのだ、と。
 速やかな経済発展を成し遂げるかたちで戦後復興は、成った。一方で、福祉を家庭と企業に負わせることで公的負担を軽くした。このことが、非常時にとても弱い社会をつくった。すぐに、脱落者を多量に生む。しかも脱落が「自己責任」と言われる。それが、今を生きる日本人すべての生きづらさであり、7人の女の子たちは、特殊というよりは端的なのだろう。
 AV女優などの語りはもともと、とても今風なところと古風なところを持っている。それが「生い立ち話」になりやすかったのは、性産業が、家族からこぼれた者の受け皿であり、なおかつ家族を支える手段ともなってきたことによる。7人の話は、日本の経済の影の主役だった〈家族〉と、表の主役であった〈企業〉、両方が壊れた世界で生きるとはどんなことであるかを問いかけている。
 「震災の体験を風化させてはいけません」とお題目を唱えながら、すでに「なかったこと」として生きる都市の人間と、何も変わらない被災地の現実とのギャップも、身ひとつのリアルな移動者は教えている。
    ◇
 双葉社・1470円/やまかわ・とおる 77年山形県生まれ。ルポライター。『東北魂 ぼくの震災救援取材日記』など。

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