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協力がつくる社会 ペンギンとリヴァイアサン [著]ヨハイ・ベンクラー

[評者]渡辺靖(慶応大学教授・文化人類学)

[掲載]2013年05月05日

[ジャンル]人文

表紙画像

■共感や協調を引き出す工夫

 人を動かす常套(じょうとう)手段といえばアメと鞭(むち)。どちらも人間が私利私欲に満ちた存在だとする性悪説に根ざしている。人間とは「リヴァイアサン」(旧約聖書に出てくる巨大な海の魔獣)というわけだ。
 だがネットワーク研究の第一人者である著者は「人間は単なるアメと鞭よりはるかに多くのものに動機づけられている」とし、自発的に協力する存在としての人間に着目する。オープンソースの基本ソフト(OS)として有名なリナックスのマスコットである「ペンギン」がその象徴だ。
 ネットワーク理論の分野では社会科学や自然科学の知見を援用しながら20年ほど前から協調や創発のメカニズムの解明が進んでいる。
 著者はその成果を踏まえながら、ウィキペディアのようなオンライン上の協働プラットホームからコミュニティー警備、カーシェアリングにいたるまで、世界各地のペンギンたちによる創意工夫の先端事例を豊富に紹介する。
 とりわけ保守派とリベラル派のブログ論壇の運営スタイルを比較しながらオバマ大統領の巧妙な選挙戦略を分析したくだりは秀逸。ネット選挙に関心ある向きは必読だ。
 むろん著者は「私たちは天使ではない」とし、ナイーブな性善説には与(くみ)しない。「私利私欲と協力は排他的ではない」とも念押ししている。
 協調や創発を意図的に誘引することには危険性も伴う。リヴァイアサンがペンギンを餌食にしないとは限らない。
 しかしリヴァイアサンだけでは組織や社会の運営に限界があるのも確かだ。国際関係においてすらハードパワー(アメと鞭)のみならず、ソフトパワー(相手の共感や協力を引き出す力)が注目される時代である。
 リヴァイアサンの発想に囚(とら)われるあまり身近な制度や人間関係の潜在能力を押し潰してはいないか。
 一度立ち止まって見直すには格好の一冊だ。
    ◇
 山形浩生訳、NTT出版・2520円/Yochai Benkler 64年、イスラエル生まれ。ハーバード大ロースクール教授。

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