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シロアリ [著]松浦健二/アリの巣の生きもの図鑑 [著]丸山宗利ほか

[評者]川端裕人(作家)

[掲載]2013年05月05日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■足元に広がるワンダーランド

 『シロアリ』の著者は、幼少時、原っぱのベニヤ板をひっくり返して発見したシロアリの巣に魅了された。ここに「もうひとつの世界がある」と。研究者を志す学生時代は、アパートの炬燵(こたつ)で飼うほどの入れ込みぶり。大家さんに知れたら一悶着(ひともんちゃく)あったかもしれないが、幸いトラブルに至らず、まっすぐシロアリ道を突き進んだ。そして見いだしたのは「ワンダーランド」である。
 社会性昆虫で最初に研究が進んだアリ・ハチは、女王を頂点とするメス中心の社会だ。オスは生殖のみに生き、死ぬ。一方、著者らが解き明かしてきたシロアリ社会は「男女共同参画」。羽アリになって新しい巣を創った後も王は女王と共に生きる。ワーカー、兵アリなど、アリ・ハチではメスのみの役割も雌雄ともに参加する。それも、ぷっくりした幼虫の状態で! 共同参画はよいが児童労働はいかん! と思ってもこれが彼らの社会である。良し悪(あ)しではない。
 著者が発見した女王の「分身の術」が特異。単為生殖で自分と同じ遺伝子を持ったメスを生むことで、ある意味不老不死となる。副題の「女王様、その手がありましたか!」は他ではお目にかかれない女王の生き様への驚愕(きょうがく)を示す。
 シロアリは系統的にはゴキブリに近いそうだが、見た目の繋(つな)がりで『アリの巣の生きもの図鑑』も推したい。アリに依存して生きる「好蟻性(こうぎせい)生物」を網羅的に扱った労作写真集。アリが地面の下に創る「もうひとつの世界」はなんと多様な生命を育んでいることか。シジミチョウの幼虫はアリ自身によって巣内に運ばれ、アリの幼虫を食べ成長する。ある種のツノゼミ、ハナアブ、コオロギなども生活史の一部をアリの巣に依存する。実はシロアリの巣も同様で、本書の最後に紹介されている。「アリの巣」は、主(あるじ)たる「アリ」だけではない、足下に広がる身近なワンダーランドだ。
    ◇
 『シロアリ』岩波科学ライブラリー・1575円▽『アリの巣の生きもの図鑑』東海大学出版会・4725円

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