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ユーロ消滅?―ドイツ化するヨーロッパへの警告 [著]ウルリッヒ・ベック [訳]島村賢一

[評者]水野和夫(日本大学教授・経済学)

[掲載]2013年05月12日

[ジャンル]経済 国際

表紙画像

■危機への岐路に立つメルケル

 ユーロ危機を国家債務危機ととらえた経済学者は「資本の理解者」となって貧者に新自由主義を強いると著者は指摘する。債務危機ではなく、欧州危機なのであって「欧州が排外主義や暴力に回帰せずに、根本的な変化や多大な挑戦に対して解答を見いだせる」かどうかが問題の核心だという。
 著者は、現在の欧州はマキャヴェッリが経験した15~16世紀以上の危機に直面しているのであり、「革命前夜のような状況」と認識する。独首相メルケルを、『君主論』の戦略家になぞらえ「メルキァヴェッリ」と称し、これまでの「懐柔戦略としての躊躇(ちゅうちょ)」的な手法をたたえているが、「ドイツによるヨーロッパ」が全面的になると、限界に近づくと危惧し、それを避けるための「公平」「均衡」など四つの原則を提唱する。
 現在の危機に対処するには、国民国家的世界観を変え、「ルールを守る小政治」から「ルールを変える大政治」へと転換する必要がある。欧州連合を進めていこうとする著者によれば、「慣れ親しんだルーティンを粉々にする例外の事態」と通常の事態が区別できない「リスク社会」において、秩序の転換には二つのシナリオがある。一つはヘーゲル的、もう一つはカール・シュミット的なそれだ。前者は民主主義が国家の枠を超えて生き残り、後者は独裁への道が待っている。
 危機のさなかに、ドイツは意図せずしてヨーロッパの中心に躍り出た。カエサル、ナポレオン、ヒトラーらが強大な軍事力を以(もっ)てしてもなしえなかったことを、メルキァヴェッリが“壮大な社会実験”として行っている。翻って、我が国のそれといえば、ベースマネーを2倍に増やすことだという。なぜ日本は「近代の勝利の副次的作用としてのグローバルなリスク」に無頓着なのだろうか、この点を解明しないと日本は周回遅れのトップランナーになりさがるだろう。
    ◇
 岩波書店・1575円/Ulrich Beck 44年生まれ。元ミュンヘン大学教授。社会学者。『危険社会』

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