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ミック・ジャガー ワイルド・ライフ [著]クリストファー・アンダーセン

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2013年05月19日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■彼は悪魔で神である

 1969年、あの殺人事件が起こった悪名高きオルタモントのロックフェスティバルでのローリング・ストーンズは、僕の中に決定的な悪徳と危険の種子を移植させた。彼らに対する蠱惑(こわく)と拒絶! ストーンズの脳神経であるミック・ジャガーは一体何者? その本性が本書で開帳されるに従って、彼の存在は悪魔とも神とも見分けがつかなくなってくる。
 バイセクシュアルなミックは手をひらひらさせながら卑猥(ひわい)なモンローウオークで聴衆をSEXショーに導き、自らは性の伝道者に変身。彼と悦楽を共にした足の長い美女たちに彼をカサノヴァともドンフアンとも言わしめたが、そのSEXライフは性別・人種を問わない超人的性豪の域に達しており、子供もいながら結婚の形態は完全無視。本書の活字はほぼ全編、SEX労働者絶倫男ミックの女性遍歴で埋め尽くされている。
 ローリング・ストーンズが結成されて半世紀。70歳を目前にミックはデビュー当時と変わらぬ体形で今や世界最高のロックスターである。ところが彼がオルタモントの件で殺人容疑者の抗弁に力を貸さなかったことから秘(ひそ)かに命を狙われる場面もあったとか……。しかし、過去をふりかえらず今を肯定する彼、「『あっという間だった』とも思わない。俺にとってまだ終わってないからだ」。常に体調管理は万全、いつでもツアーのスタンバイOK。
 彼は富豪を目指し極めてケチだが、頭脳明晰(めいせき)で洗練されていて世渡りがうまい。今や皇太子からナイト位を授かり、権力と特権の座に君臨する一方、反逆者の象徴的存在。ストーンズのアナーキーな反社会的メッセージとミックの創造的カリスマの源泉は、性を回路とするカーマスートラやタントラの性秘技を「女」の肉体から無意識に自らの内に受胎しながら女性原理と男性原理を合体させ、芸術の美神との秘教的なコラボレーションを行っているようにしか見えない。そんなミックの前に現れたアンディ・ウォーホル。二人は互いに一目惚(ひとめぼ)れ、共作版画まで制作。
 彼がステージで尻(ケツ)を振り振り、大きい口唇を突き出して吐き出すように歌う時、聴衆は彼の享楽主義の魔法にまんまと掛かり、性の共犯者にさせられてしまうのである。
    ◇
 岩木貴子・小川公貴訳、ヤマハミュージックメディア・2730円/Christopher Andersen 「ピープル」の編集者で作家。クリントン夫妻やマドンナ、英国ウィリアム王子とケイト・ミドルトンら多くの著名人の伝記を著す。

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