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ソウル・マイニング 音楽的自伝 [著]ダニエル・ラノワ

[評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)

[掲載]2013年05月19日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■「魂の採掘」でサウンドを革新

 ダニエル・ラノワは、カナダ出身のミュージシャン、レコーディング・エンジニアである。鬼才ブライアン・イーノとの共同作業——とりわけアイルランドの世界的ロック・バンドU2のアルバム——や、ボブ・ディラン、ニール・ヤング、ネヴィル・ブラザーズといった有名アーティストとの仕事で知られている。本書は、とはいえ音楽ファン以外にはあまり知られていないラノワが、自ら半生を振り返った一冊である。
 カナダの仏語圏ケベック州で生まれたラノワは、10歳までフランス語しか話さなかった。両親の離婚によって英語圏のオンタリオ州に引っ越して以後、幼い頃から身近にあった音楽を一生の仕事にすると決め、兄と自前のスタジオを開設する。安くて上手(うま)くて創意工夫に富んだエンジニアとして名を馳(は)せたラノワに、ブライアン・イーノと名乗る男からコンタクトがある。既にイーノは非常に有名だったのだが、カナダの片田舎に居たラノワはまったく知らなかった。スタジオにやってきたイーノとラノワはすぐに意気投合し、以来コンビで革新的なサウンドを創(つく)ってゆくことになる。こうして世に知られることになった才人ラノワに、次々と大きな話が舞い込んでくる。そう、これは典型的なシンデレラ・ストーリーだ。
 本人の自由闊達(かったつ)な筆によって語られるビッグ・アーティストたちとの思い出話は、それだけでも垂涎(すいぜん)ものではある。だがこの本の肝は、数々のエピソードから立ち上がってくるラノワの人柄だ。相手がどれだけ大物であろうと自分の意見に自信と責任を持ち、伝統を大切にしながらも既成概念にとらわれず、常に前向きに新たな仕事に取り組んでゆく。彼は音楽をソウル・マイニング=魂の採掘と呼ぶ。ラノワはギタリストでもあり、自分のアルバムも出している。本書を読んでから彼の音楽を聴く人がいてもいい、そう思った。
    ◇
 鈴木コウユウ訳、みすず書房・3990円/Daniel Lanois 51年、カナダ生まれ。音楽プロデューサー。

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