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「グローバリズム」の歴史社会学 フラット化しない世界 [著]木村雅昭

[評者]萱野稔人(津田塾大学教授・哲学)

[掲載]2013年05月19日

[ジャンル]社会

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■今なお基底的、国民国家の論理

 グローバル経済の進展によって国家は衰退するだろう。これまで幾度となく表明されてきた見解だ。国家は市場経済にできるだけ干渉してはならず、規制緩和こそがあらゆる国家がめざすべき共通の課題である、という主張もその一つである。経済の領域だけではない。私の専門である人文思想の世界でも同じような見解がさんざん繰り広げられてきた。
 本書はしかし、こうした見方に対して批判的な立場をとる。はたしてグローバル経済の進展は実際に国家を後退させ、フラットな世界を実現しつつあるのだろうか。決してそうなってはいないことが、さまざまな事例の分析を通じて本書で示されている。その論証は十分に説得的だ。
 たとえば欧州連合(EU)はしばしば、グローバル経済の進展に近代国民国家が対応しきれなくなったことで生まれた地域共同体であると位置づけられる。しかし、国民国家の境界でコントロールできなくなったグローバル経済の流れを地域共同体の境界でならうまくコントロールできると想定すること自体、無理がある。債務危機におちいったギリシャの救済策においてEU各国の思惑が入り乱れたのも、国民国家の論理のほうがいまだ基底的でありつづけていることを示している。
 グローバル経済が進展しても国家は決して後退しないことを理解するためには、資本主義経済において国家がはたしている根本的な役割を考察しなくてはならない。なぜ2008年の世界金融危機のとき、あれほど「政府は市場から出ていけ」と主張していた金融機関に、公的資金の注入がなされたのか。歴史的な事実として資本主義が国民国家のもとで発展してきた理由についても説明を試みている本書は、そうした国家の役割を考えるうえで極めて重要な論点を提供している。通俗的なグローバリズム論から脱却するための必読の書である。
    ◇
 ミネルヴァ書房・3675円/きむら・まさあき 42年生まれ。京都大学名誉教授。『帝国・国家・ナショナリズム』

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