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黒澤明の十字架 戦争と円谷特撮と徴兵忌避 [著]指田文夫

[評者]出久根達郎(作家)

[掲載]2013年05月19日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■偉丈夫はなぜ徴兵されなかった

 映画監督の黒澤明は壮健な偉丈夫だったが、徴兵体験はない。軍務経験もゼロである。自伝で、徴兵司令官が父の教え子だったため兵役を免れた、と書いている。著者は徴兵制度に情実があり得たか、と疑問を抱く。
 調べると召集延期の条件には、××に従事して必要欠くべからざる者、という項目があることを知る。続いて戦時下の映画会社の実態を調べる。黒澤の会社では、極秘で航空教育用の映画を製作していた。教官不足のため、映画を教材に用いたのだ。軍部の御用だから、余ったフィルムを劇映画に流用できる。黒澤は会社の宝であり、戦病死した山中貞雄の先例をくり返したくなかった。本人に内緒で軍部に手配りをした。
 黒澤は兵役未体験が心の負担になった。「静かなる決闘」の主人公の描き方に、その辺の心理が現れている。およそ黒澤映画らしからぬ、うじうじと悩む男——という風に兵役義務の観点から考察した、新鮮な黒澤作品論である。
    ◇ 
 現代企画室・1995円

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