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隣人が殺人者に変わる時 [著]ジャン・ハッツフェルド/ゆるしへの道 [著]イマキュレー・イリバギザ、スティーヴ・アーウィン

[評者]渡辺靖(慶応大学教授・文化人類学)

[掲載]2013年05月26日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝 国際

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■ルワンダの悲劇、目を閉ざさずに

 1994年のルワンダ虐殺。フツ族の過激派によってわずか3カ月間に80万人のツチ族と穏健派フツ族が殺害された。
 ジェノサイド(根絶を目的とする計画的殺戮〈さつりく〉)という点ではナチスのホロコーストと同じだが、ルワンダの場合、二つの民族は同一の由来を持ち、同じ言語を話し、隣人として長く共存していた。
 曖昧(あいまい)だった両者の差異を固着化させたのは宗主国ベルギーによるツチ優遇策。62年の独立後も政情不安の源泉となった。
 『隣人が殺人者に変わる時』は重い口を開き始めたツチの生存者14人の証言集。隊列を組み、大鉈(おおなた)や手榴弾(しゅりゅうだん)を手に近づいてくるフツ。そこには顔なじみの教師や医者、聖職者の姿もあった。虐殺は毎日朝9時半から規則正しく行われ、ツチの多くは泥沼に茂る葉の下に身を沈め続けた。
 殺害の様子をここに列挙することは控えたい。ただ、その残忍さたるや、死体を食べる動物でさえ逃げ出すほどだった。そして、被害者に背を向け、逃げ出したのは国際社会も同じだった。
 剥(む)き出しの現実を意味づけしようともがく生存者の姿は、人間の精神が受容できる苦しみの限界点を示しているかのようだ。
 『ゆるしへの道』の女性著者は当時22歳。同じツチの女性7人とともに、穏健派フツの牧師宅の1畳もないトイレに無言のまま91日間身を隠し通した。彼女を支え導いたのは信仰だった。
 ところが、解放後、彼女は自分の家族を殺戮(さつりく)したフツを許すにいたる。それは一体なぜか。そして可能なのか。そもそも「許し」とは何か。
 彼女はやがて国連で仕事を見つけ、良き伴侶に恵まれ、ニューヨークに移住する。想像を絶する悲劇のなかにも希望と愛を感じさせてくれる一冊だ。
 その彼女は今も祖国の孤児への支援を惜しまない。曰(いわ)く「子どもたちが新しいルワンダをつくっていくからです。子どもたちに投資しなければ未来はありません」と。
 6月1日から横浜で開催されるアフリカ開発会議(TICAD)。豊富な資源をもとに急成長するアフリカには各国の「戦略的」な熱い眼差(まなざ)しも降り注がれる。
 しかし、アフリカの過去や窮状に目を閉ざすとき、善意に基づく営為でさえ搾取や暴力を誘発する逆説に陥りかねない。
 ルワンダ虐殺については映画「ホテル・ルワンダ」など優れたドキュメンタリーも多いが、国際社会の自戒も含め、アフリカ・ブームに沸く今、改めて想起される必要があろう。
 日本は世界の140カ国以上が加盟するジェノサイド条約を未批准の唯一の先進国だ。
    ◇
 『隣人…』 ルワンダの学校を支援する会訳、かもがわ出版・1995円/Jean Hatzfeld 49年生まれ。ジャーナリスト。『ゆるし…』 原田葉子訳、女子パウロ会・1470円/Immaculee Ilibagiza ルワンダ生まれ。著述家。Steve Erwin トロント生まれ。作家。

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