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正直シグナル 非言語コミュニケーションの科学 [著]アレックス(サンディ)・ペントランド

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2013年05月26日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■無意識の行動に表れる意図

 本書を読み進むうちに、この書のテーマを意味する表現に何度か出会う。「人間の集団を、言語によって結びついた、個々の知性の集まりとして見ることから、太古のシグナリング・メカニズムによって結びついたネットワーク・インテリジェンスとして見ることへの移行は、必要不可欠」などがそうだ。
 移行への第一歩で、従来の組織原理、情報収集、意思決定の方法が変わり、我々の社会生活が変容する。原始社会では、非言語手段で意思決定やその伝達が行われていたが、そこにこそ正直シグナルの共有があったというのである。興味ある視点だ。
 計算社会科学という新分野の第一人者である著者は、人間の社会的相互作用を「情動(顔の表情、声の調子など)」「言語」のほかに、「話し手の態度あるいは意図が、韻律と身ぶりの大きさや頻度の変化のような無意識の行動」に表れると分析し、これを正直シグナルと称する。この分析に、著者の研究グループは測定機器を考案し、何万人もの行動を観察して統計をとった。ポーカーから会社の営業まで幅広い実験結果が報告されている。
 正直シグナルには、影響力、ミミクリ(模倣)、活動レベル、一貫性の四つがあるという。ミミクリは会話の際の相づち・うなずきなど反射的になぞる行為だが、これは一対一の会話では、信頼と共感を生む。測定機器で調べると、動きのある活動レベルは会話への関心が深く、2人の間では2分以内に連絡先を交換するそうだ。いずれにせよ、人はこの四つの中に自らの心理を投影させた正直なメッセージを宿らせる。
 人類は今、携帯やアイフォーンにより、まったく新しい時代のデータ回路を持つ。末尾の一節(「私たちは、なんと興味深い時代に生きているのだろう」)にふれて、データ主導情報社会の負の側面について考え込む。
    ◇
 柴田裕之訳、安西祐一郎監訳、みすず書房・2730円/Alex(Sandy) Pentland MITメディアラボ教授。

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