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平和主義とは何か 政治哲学で考える戦争と平和 [著]松元雅和

[評者]萱野稔人(津田塾大学教授・哲学)

[掲載]2013年05月26日

[ジャンル]政治 社会

表紙画像

■武力行使を考え抜く道筋示す

 改憲論議が再び活発化している。その根幹にはもちろん、憲法が掲げる平和主義を今後も維持していくべきか、という問題がある。事実、憲法の平和主義は国際貢献や集団的自衛権といった、現代の国際社会が突きつける課題にさらされてきた。そうした状況のもと、国際関係の指針となりうる説得的な平和主義のあり方を政治哲学的に探ろうとしたのが本書である。
 本書の大きな特徴は平和主義を二つに分けている点だ。一つは、いかなる場合でも武力行使を拒否し非暴力をつらぬく「絶対平和主義」であり、もう一つは、平和的手段による問題解決を最優先としつつも場合によっては例外的に武力行使の必要性を認める「平和優先主義」である。本書が軸足をおくのは後者の平和優先主義のほうだ。そのうえで、平和主義の可能性を三つの非平和主義の主張をぶつけながら探っている。三つの非平和主義とは、「戦争には不正な戦争もあれば正しい戦争もある」と考える正戦論、「戦争の正・不正を議論すること自体意味がない」と考える現実主義、そして「著しい人権侵害を阻止するためには武力行使も必要だ」と考える人道介入主義である。
 驚くのは、これら非平和主義と平和主義がときとして極めて接近し、共通点さえ示すことだ。これは著者が「平和優先主義」に立脚して議論を展開していることに由来する。とはいえ、このことは決して本書の瑕疵(かし)にはならない。逆である。これまで議論がなかなかかみ合わなかった平和主義と非平和主義のあいだに共通の議論の土台をつくり、論理性を重視した合理的な思考によって武力行使の問題を考えなおす道筋をつけること。これこそが本書の最大の意義である。平和「主義」という特定の立場を性急に選びとるだけでは、決して平和主義を強化することにはならないし、平和そのものを進展させることにもならないのだ。
    ◇
 中公新書・861円/まつもと・まさかず 78年生まれ。島根大学准教授。『リベラルな多文化主義』

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