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アマン伝説 創業者エイドリアン・ゼッカとリゾート革命 [著]山口由美

[評者]隈研吾(建築家・東京大学教授)

[掲載]2013年05月26日

[ジャンル]歴史 経済 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■格差をビジネス化、悲しき成功

 アジアン・リゾート・ブームの仕掛け人である、現代のホテル王のノンフィクションにもかかわらず、華やかな成功譚(たん)というより、壮大な悲劇的神話に似ていた。タイトルは、さしずめ「悲しき熱帯」。
 登場人物のほとんどは、西欧とアジアの間を漂う。無国籍、多国籍な「ヒッピー」である。彼らこそ、20世紀の西欧中心的な工業社会の限界に気づき、アジアの「気持ちよさ」に最も早く気づいた、繊細で感性豊かな人々であった。その「気持ちよさ」をビジネスにつなげることに最も長(た)けていたのが主人公、アマンホテルのエイドリアン・ゼッカである。
 なぜ、アジアン・リゾートがビジネスになったか。格差が存在するからである。人件費の安さ、土地の安さ、建設費の安さ。それゆえにアジアン・リゾートは現在の経済と文化をリードする。かつて、その格差を「商品」を媒介として、ビジネスにしたのが、ヨーロッパ近代であった。今、ポスト近代の「ヒッピー」達(たち)は、「サービス」を媒介として植民地ビジネスを展開し、富を築いた。
 アジアの最高の理解者である彼らが、格差を利用して富を築き、結果としてアジアを西欧化し、格差を平準化した。しかも、彼らは、自分が何をしているのか一番わかっている。だからこの物語は二重の意味で悲しい。
 なかでも一番悲しく見えたのは、登場する日本人達であった。格差をビジネス化するに際し、日本の旅館的サービス、環境と融和する日本建築のデザインが大きな役割をはたした。ゼッカ達は、日本から大きなヒントをもらい、日本文化を最大限利用した。しかし当の日本人はゼッカ達のずっと後でビジネスに参入し、ばばをつかまされ続けた。登場する日本企業で破綻(はたん)したものも少なくない。日本人は、日本に対して、自分の文化に対して自信がなく、乗り遅れた。リゾートに限らず、すべての領域での現代日本人の悲しさを感じて、つらくなった。
    ◇
 文芸春秋・2048円/やまぐち・ゆみ 62年生まれ。作家。『ユージン・スミス』で小学館ノンフィクション大賞。

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