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褐色の世界史―第三世界とはなにか [著]ヴィジャイ・プラシャド

[評者]柄谷行人(哲学者)

[掲載]2013年06月02日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■プロジェクトの出現と崩壊追う

 「第三世界」という言葉は今も使われるが、ほとんど途上国や経済的後進国という意味でしかない。本書の序文冒頭に、次のことばがある。《第三世界は場所ではない。プロジェクトである》。このプロジェクトはたんに、これまで植民地下にあった諸国が独立し、西洋先進国と並ぶようになるということではない。それまで前近代的として否定されてきたものを高次元で回復することによって、西洋先進国文明の限界を乗り越えるというものである。このような理念がなくなれば、第三世界は消滅するほかない。本書は、この理念がいかにして出現し、且(か)つ消えていったかを丹念に追跡するものである。
 本書から、私は第三世界に関する基礎的な史実を学んだ。その中でも興味深いのは、第三世界の運動が国連を中心にしたということである。つまり、途上国の連合体は、大国に従属せず、国連を通して力を行使しえたのである。もう一つ大事なのは、第三世界が、1927年ブリュッセルで結成された「反帝国主義連盟」から始まるという指摘である。このことは、第三世界が帝国主義戦争(第1次大戦)の結果として生まれてきたことを意味する。
 かつて第三世界は世俗的・社会主義的なナショナリズムを掲げたが、今やそれが消えて、人種、宗教などにもとづく偏狭な文化ナショナリズムに転じた。が、この傾向は経済的後進国に限らない。日本でもどこでもそうなっている。これをもたらしたのは、グローバルな資本主義である。それは新自由主義と呼ばれているが、新帝国主義と呼ぶべきものである。「第三世界」を滅ぼしたのは、この新帝国主義である。しかし、本書を読んで、私はこう思った。そう遠くない将来に、「第三世界」に代わるものが生まれるだろう、そして、それは新たな国連と結びつくだろう、と。
    ◇
 粟飯原文子訳、水声社・4200円/Vijay Prashad 米トリニティ・カレッジ教授(南アジア史、国際学)。

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