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「少子化論」書評 従来の対策の根本的な転換を

評者: 水無田気流 / 朝⽇新聞掲載:2013年06月02日
少子化論 なぜまだ結婚、出産しやすい国にならないのか 著者:松田 茂樹 出版社:勁草書房 ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784326653805
発売⽇:
サイズ: 20cm/246,10p

少子化論―なぜまだ結婚、出産しやすい国にならないのか [著]松田茂樹

 少子化は、日本社会の抱える問題の集積点である。しかしながら経済・社会・家族関係などと不可分の関係にあるため、客観的に論じることは難しい。自明視されているがゆえに見えない問題に本書は一つ一つ光を当てていく。
 このまま少子化が進めば、社会保障制度は破綻(はたん)し、労働力も消費力も大幅に損なわれる。次世代を産み育てる若年層に優しい政策が必要だが、肝心の投票率は高齢者層が高いため、政治は「高齢者シフト」が起こっている。また地域社会は学区など子どもを媒介にしたつながりを基盤としてきたが、これも解体の危機に瀕(ひん)している。なるほど少子化とは、単に次世代人口が減少することのみを意味しない。総体としてこの国を崩壊に導く時限爆弾なのだ。
 それに対し、従来の少子化対策には根本的な誤りがあったと筆者は指摘する。少子化の最大の要因は未婚化であり、若年層の非正規雇用増加などが背景にある。それゆえ、制度に守られず生活も不安定な非正規雇用者こそ優先的に賃上げし、同一労働同一賃金を目指すべきである。また雇用の場でも子育て当事者しか念頭に置いていないのも問題だ。日本の育休制度は先進諸国の中では中程度だが、育休取得中の社員の穴埋めを求められる他の社員の負担増は見えていない。むしろ有給休暇の取得促進や残業削減策など、総合的な労働時間減少と効率性向上が肝要。女性個人の育児と就業だけではなく、総合的な協業と次世代再生産の両立が目指されるべきだ。
 通読して、あまりにも育児当事者(母親)支援に偏った現行制度の問題を再認した。これは裏を返せば、子育ては個人責任との認識から来るものだろう。昨今話題の「女性手帳」も問題は同根である。諸外国に比べ、日本は公共交通機関などで子連れに冷淡だという報告も気になる。この国の、今ここにある危機を読み解くガイドとなる一冊。
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 勁草書房・2940円/まつだ・しげき 70年生まれ。中京大学教授(社会学)。『何が育児を支えるのか』など。