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「八月の砲声」を聞いた日本人―第一次世界大戦と植村尚清「ドイツ幽閉記」 [著]奈良岡聰智

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2013年06月02日

[ジャンル]歴史 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■知られざる国家総力戦の実態

 1914年7月の第1次世界大戦勃発時、ドイツには約600人の日本人(留学生が多い)が滞在していたと推測される。当初、日本は味方と目されていたが、やがて日英同盟の関係で日本も参戦しドイツに最後通牒(つうちょう)をつきつけると、その空気は一変する。
 本書の1では日本政治史研究者の著者が、各種資料をもとに「敵国日本人」の置かれた状況を解説する。この解説を理解して、2のプラハのドイツ大学で細菌学研究を続けていた医師・植村尚清(ひさきよ)の80日間に及ぶ幽閉記録を読むと、第1次世界大戦の知られざる一面がわかってくる。植村は、ドイツ人の多くからドイツは日本に多くの知識・学問を教えたのになぜ戦いを挑むのか、「恩知らず」と罵声を浴びせられた。植村の筆も、ドイツ人は心が狭い、惨忍(ざんにん)な行動に走ると怒りだす。
 著者の語る会社員、旅芸人、ドイツ人の妻など多様な日本人の辛苦の姿に、実はドイツの国家総力戦の実態があったとの指摘は鋭く、貴重だ。
    ◇
 千倉書房・3360円

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