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経済と人類の1万年史から、21世紀世界を考える  [著]ダニエル・コーエン

[評者]水野和夫(日本大学教授・経済学)

[掲載]2013年06月09日

[ジャンル]経済

表紙画像

■事後に過ち正せぬ時代が到来

 本書はフランスで2009年に上梓(じょうし)された『悪徳の栄え』(原題)の邦訳である。1万年前の新石器革命において「神」が発明された事情から始まって、近代に西欧が中国を圧倒した理由、そして9・11に象徴されるように暴力が共同体の想像力へと向けられるに至った背景など、誰もが漠然と不可解だと思っていたことに明快に答えている。
 近代社会になって生産性は飛躍的に向上し、モノの価格は安くなったが、モノの数は急速なテンポで増え続けていると著者は指摘し、「使い捨て経済」を躍進させていると警告する。まさに、日本がその典型例だ。コンビニは陳列商品の賞味期限を厳格に守り、食べられるであろう食品を惜しげもなく廃棄しているし(日本全体では食べられるのに廃棄されているのは5〜10%)、良質で安価なTシャツを売っている店では必要な1着だけを買えるような雰囲気ではなく、ついつい余分な衣類も購入してしまう。
 米思想家スーザン・ソンタグは『火山に恋して』で、蒐集(しゅうしゅう)とはつねに必要を超えたもので、必ず過剰・飽満・過多に行き着くと西欧の指導者を皮肉っていたのだが、元々そうした考えを持たない日本で「使い捨て経済」が花開いている。仏人の著者がこうした傾向に警告を発するのは、伝統的に蒐集の過剰性を有しているからだろう。だから逆に、有していない日本では安直に成長至上主義に走る。
 本書の結論はとても考えさせる。つまりサイバーワールドの時代に入って、人類は事後に自らの過ちを正すことはもはや許されない。これは人類史上初めてのことで、人類は18世紀以降欧州が辿(たど)って来た道筋を精神的には逆方向に走破すべきだと。すなわち、世界は無限だという考え方から閉じているという方向にである。今の日本は、21世紀が20世紀の延長にあると信じて疑わず激走しており、著者のいう方向と正反対だ。
    ◇
 林昌宏訳、作品社・2310円/Daniel Cohen パリ第1大学・パリ高等師範学校教授。パリ経済学校副学長。

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