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亡びゆく言語を話す最後の人々 [著]K・デイヴィッド・ハリソン

[評者]内澤旬子(文筆家・イラストレーター)

[掲載]2013年06月09日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■敬意をもって耳を傾け記録

 アメリカ先住民ナバホ族のディネ語の吹き替えによる「スターウォーズ」が今夏公開される。ナバホ族自身によるディネ語保存のための画期的な試みだ。アメリカ先住民の中で最も人口の多いナバホ族でも、半数がもうディネ語を話さないそうだ。
 この本で紹介されるのは、ディネ語よりもっともっと小さな、世界の辺境にひっそり散在し、あと数年で滅びてしまうかもしれない、そんな超マイナー言語の話者たち。文字を持たず、口承が大半だ。
 辺境でずっと自然に寄り添って暮らしてきた彼らから、豊かな土地を奪い、教育という名目で他言語を押し付け、彼ら独自の言語や文化が恥ずべきものであると抑圧したのは、ロシアやアメリカ、中国、ブラジル、オーストラリアなどの近代国家たち。日本だってアイヌと沖縄に同じことをしてきた。しかしその一方で視点をマクロにとれば、日本語もまた英語に脅かされるマイナー言語とも言えないか。
 言語学者である著者はアメリカ人であり、多言語を話すとはいえ、母語は英語。彼は最後に残された話者たちを訪ね、敬意をもって彼らの語りに耳を傾け記録する。例えばシベリアのトゥバ族の「行く」は、現在地から一番近い川を基点にして上流に行くか下流に行くかを分けて言う。環境とともに保存して意味を持つ言葉もあるのだ。
 家畜の状態、植物や天候を細かく見分けることが前提でついた膨大な名前たちは、知恵の宝庫であり、失われてからでは遅いのだと訴える。
 鮮やかに描かれる辺境の地の言語文化の豊かさに、著者と一緒になって感嘆する一方で、時々逆の、著者に訪ねてこられる者の視点にスライドしてしまう自分を発見し、複雑な気持ちになった。
 この先グローバリズムの果てに日本語が淘汰(とうた)されないためにも、今亡(ほろ)びゆく言語文化を知り、耳を傾けることが大切なのかもしれない。
    ◇
 川島満重子訳、原書房・2940円/K.David Harrison スワースモア・カレッジ言語学科助教授。

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