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生まれ変わる動物園 [著]田中正之/標本の本 [著]村松美賀子・伊藤存

[評者]川端裕人(作家)

[掲載]2013年06月16日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■展示だけじゃない、研究意欲も

 動物園は博物館法で定められた施設だ。社会的使命として「種の保存」「教育・環境教育」「レクリエーション」に加え「調査研究」がある。これまであまり強調されてこなかった役割で、長らく改善すべきだとされてきた。日本で2番目に古い京都市動物園で、変化の兆しがあるという。
 『生まれ変わる動物園』の著者は、執筆時は京都大学の准教授。しかし職場は京都市動物園。職員と机を並べ作業服も着る。見た目は飼育員そのものだが、その実、プロの研究者である。5年間の動物園勤務の中、著者はまず自分の専門である霊長類の認知実験に取り組む。タッチパネルのコンピュータを使い数の認識について調べるなど。また、飼育動物の夜間行動観察で、キリンが首を折って眠るのがせいぜい数分であると確認し、野生では難しいバクやヤブイヌの出産の観察を子細に行う。動物園での研究は、より深く動物を理解することから、飼育環境の改善や種の保存にもつながりうる。
 動物園には潜在的な研究者が他にもいる。好奇心旺盛で、担当動物を理解したいと願う飼育員たちだ。研究の方法を知るプロが核となって研究マインドが加速する様は読んでいて楽しく頼もしい。著者はこの春、京都市動物園の研究センター長に転身した。
 一方、博物館。京都大学総合博物館の地下収蔵室を解説した写真読本『標本の本』は、研究の場としての博物館を描き出す。博物館では学芸員が調査研究をする建前だが一部を除いて難しいと聞く。大学直属ゆえ研究への使命感が強い施設の収蔵庫は、標本を蓄積し研究することが動植物学・地学などを支えていると実感させる。
 動物園と博物館にはそれぞれ固有の事情がある。しかし、収集展示の流れの中に研究を含めると一本スジが通る。古都京都からの二つの報告に、力強い研究マインドの発露を感じた。
    ◇
 『動物園』化学同人・1785円/たなか・まさゆき▽『標本』青幻舎・3360円/むらまつ・みかこ いとう・ぞん

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