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おかしなジパング図版帖―モンタヌスが描いた驚異の王国 [著]宮田珠己

[評者]三浦しをん(作家)

[掲載]2013年06月16日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■こんなお辞儀見たことないよ

 図版がたくさんの楽しい本。なんの絵が載っているかというと、主に、「1669年にオランダ人モンタヌスが著した『日本誌』の挿絵」だ。
 当時のヨーロッパでは、未知の国の文化や風俗への関心が高まっていた。そこでモンタヌスは、挿絵をふんだんに使った本を出版し、好奇心旺盛な読者に「日本」の情報を伝えようとしたのだった。
 問題は、モンタヌスには来日経験がなかったことだ。文献を収集し、実際に日本を見たことのあるひとに話を聞き、と精いっぱいの努力はしたのだが、できあがった本の挿絵はどうしたってヘンテコになった。いま見ると、これらの絵が爆笑の不可思議日本を形成しているのである。
 海外のひとにとっては、「お辞儀」が奇異なものに映るらしい。『日本誌』のなかにも、お辞儀をする日本人があちこちに描かれるのだが、立ったまま体のまえで両腕をぶらんと下げ、腰を折っている。「立位体前屈をするも、体が硬くて地面に全然手が届かないひと」みたいだ。こんなお辞儀、見たことないよ!
 著者の宮田氏は挿絵の隅々にまで目をこらしており、「茄子(なす)のヘタのような兜(かぶと)」をかぶるサムライなど、妙ちくりんな人物を次々に発見し、楽しく紹介してくれる。建物も乗り物も着物も、ほぼすべてが変で、過去の日本ではなく、べつの惑星の光景を眺めているかのようだ。
 だけど、いやな感じはしない。情報を速く正確に伝達できるようになった現在でも、未知の国やひとや事物について、一方的な思いこみやイメージを抱いてしまうことはよくある。モンタヌスを笑えないなと思ったし、資料と想像力を武器に、見知らぬ世界になんとか迫ろうとした当時の人々の、情熱と好奇心と冒険への憧れの念に、なんだか胸が熱くなった。
 「こんなトンチキ日本に住んでみたかった」と、つい思ってしまう一冊だ。
    ◇
 パイ インターナショナル・1995円/みやた・たまき 64年生まれ。作家・エッセイスト。

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