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猫を抱いた父 [著]梯久美子

[評者]

[掲載]2013年06月16日

[ジャンル]文芸

表紙画像

 「子供の頃買ってもらった木の橇(そり)でこの世の端からすべり落ちる夢」。著者は30歳の冬、こんな歌を詠んでいる。その夏、検診で乳がんの疑いを指摘され、大学病院で精密検査を受けた。検査室を出ると、札幌から上京してきた母が、手帳にボールペンで一心に何かを書きつけている。のぞきこむと「南無妙法蓮華経」の文字が並んでいた。死への恐怖などそれまでなかったのに、その瞬間、生まれて初めて死を身近に感じたという。幸いなことにがんではなく、数カ月後に橇の夢を見た。
 硫黄島総指揮官・栗林忠道を描いたノンフィクション『散るぞ悲しき』の作家が、珍しく自らを語ったエッセーが47編。たおやかな素顔が見える。
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 求龍堂・1680円




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