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制度―人類社会の進化 [著]河合香吏

[評者]萱野稔人(津田塾大学教授・哲学)

[掲載]2013年06月16日

[ジャンル]社会

表紙画像

■進化史の根源に迫る長い射程

 私たちはさまざまな慣習や規則のなかで生きている。わかりやすい規則といえば法律だが、それだけが規則ではない。たとえば言葉を話すということ自体、言語規則にしたがうことで可能となる。子どもの遊びにもルールがあり、ルールがあるからこそ、その遊びに熱中する。私たちは大切な人が死ねば葬式をあげる。ただしこれは法律によって義務づけられているものではない。かといって葬式をないがしろにすることもできない。その意味で葬式は、明確な規則であるとまでいえないが儀礼化された慣習ではある。
 こうした慣習や規則を「制度」としてとらえ、それが人類社会においてどのように生成し、進化してきたのかを考察したのが本書である。本書の特徴を一言でいえば、可能なかぎり「制度」という言葉の意味を広くとり、人類が「集団で生きる」ということによって示す社会事象の根源的で本質的な性質を明らかにしようとしていることである。したがって、チンパンジーなどの霊長類と人類との比較研究などもそこには含まれており、本書が対象とするタイムスパンはとても長い。論集という性格上、扱われているテーマも幅広い。その広さと深さにおいて、本書はまさに人類進化史の根源に迫る射程をもっている。
 これまで制度が論じられるとき、その多くは「官僚制研究」のような個別の実証研究か、言説分析にもとづいた制度批判であった。とりわけ制度を「言語によって社会的に構成されたもの」として片づけるポストモダン思想の影響は大きかった。しかし言語も制度の一つである以上、それは「制度は制度によってつくられている」と述べているだけで、制度の生成や進化について実際には何も論じることができていない。こうした空虚なポストモダン的制度論と決別し、制度をめぐる議論をより深化させていくためにも、本書は必読の書である。
    ◇
 京都大学学術出版会・4410円/かわい・かおり 61年生まれ。東京外大アジア・アフリカ言語文化研究所准教授

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