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統合の終焉―EUの実像と論理 [著]遠藤乾

[評者]渡辺靖(慶応大学教授・文化人類学)

[掲載]2013年06月23日

[ジャンル]国際

表紙画像

■柔軟で奥深い多面的な政治体

 昨秋、欧州連合(EU)加盟国の対外文化機関の連合体であるEUNICの本部(ブリュッセル)を訪れる機会があった。ときはユーロ危機の真っただ中。EUへの悲観論が支配的だった頃だ。
 ところがスタッフは意にも介していないようで、いたって楽観的。すっかり拍子抜けしてしまうと同時に、EUという存在の捉(とら)えにくさを改めて実感した。今も英国がEU脱退を検討する一方、来月にはクロアチアが新たに加盟する。
 EUを動かしている運動律=論理とは一体何なのか。
 EUの形成過程からその実像、思想的含意までを精査しながら、著者は「欧州合衆国」のような大文字の「統合」はもはや望むべくもないものの、EU以前の世界に戻れないほど小文字の「統合」が進んでいると説く。
 曰(いわ)く「国家でも単なる国際組織でもない宙ぶらりんの状態のままそれなりに安定」しているのがEUであると。曖昧(あいまい)さは柔軟さやしたたかさの裏返しでもある。
 この指摘は重要だ。社会学者ダニエル・ベルが「国民国家は大きな問題を扱うには小さすぎ、小さな問題を扱うには大きすぎる」と評したのは四半世紀前だが、依然、私たちは国家単位で「主権」「市民権」「憲法体制」などをイメージし、リアル・ポリティクスを論じる癖があるからだ。
 とりわけ米国と中国という2大大国の行方に目を奪われがちな昨今、EUという政治体の奥深さと影響力はもっと想起されてよい。政治や経済の統合を推し進めるアフリカ連合(AU)がモデルとするのもEUである。
 本書は欧州委員会での勤務経験を持つ著者が過去10年ほどの間に発表した論考を中心に編まれているが、密度の高い12のパーツ(章)が有機的に結びついた曼荼羅(まんだら)のように仕上がっている。まさにEUという多面体を映し出しているかのようだ。
    ◇
 岩波書店・3990円/えんどう・けん 66年生まれ。北大教授(国際政治、ヨーロッパ政治)。編著『ヨーロッパ統合史』

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