書評・最新書評

主役はダーク [著]須藤靖/科学を語るとはどういうことか [著]伊勢田哲治

[評者]川端裕人(作家)

[掲載]2013年06月30日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■怒り心頭の物理学者、科学哲学者と大激論

 『主役はダーク』は破格の科学エッセーだ。最新の天文学、宇宙物理学を独特の諧謔(かいぎゃく)を交えて語る。
 宇宙は膨張しており、物質は希薄になっていくはずなのに、我々の世界(例えば地球)が物質に満ちているのは、ダークマターのおかげらしい。いまだ直接観測されていないが宇宙の22%を占め、局所的な密度を上げるのに貢献しているという。一方ダークエネルギーはさらに圧倒的で宇宙の74%! 万有引力ではなく、互いに反発する斥力を働かせ、宇宙が一貫して膨張する性質を与えてきた。どちらも物理学で真面目に議論される有力仮説だ。
 ともすれば難しくなりそうなテーマだが「最近の世の中は何か暗い」の一文で始まり、国家予算の赤字やら大学生の就職率について嘆きつつ、気づけば宇宙のど真ん中に誘われている。爆笑、苦笑と科学が隣り合わせる筆さばきだ。
 なお、本書には「仮想敵」が配されている。それは科学哲学。現代科学から周回遅れになっており、なおかつ、見当外れだというのだが、その問題意識が、著者(物理学者)と科学哲学者の対談『科学を語るとはどういうことか』として結実した。
 物理学者は「科学者が受け入れられないような科学像」を科学哲学が作っていると怒り心頭だ。例えば、素粒子の存在を疑う極端な反実在論(構成的経験主義)など意味不明であり、科学哲学は科学者に役立つ提案をすべきだと訴える。
 一方、科学哲学者は、長い間、同じ問題をいろいろな角度からつつきまわしているのを認めつつ、なぜ科学が成功しているのか、科学とはどのような営みなのか知りたいという。「鳥に対する鳥類学者」とよく言われるそうだ。しかし、研究の結果が科学者にとっても刺激を与えるものであればさらによい、とも。実際、科学の新分野の立ち上げに科学哲学が参照される事例が、脳科学、認知科学、分類学などであるという。
 結局、議論は見事なまでにかみ合わずに終わる。ただ、無益というわけでもなく、読者は哲学系の粘り強い(それどころか、ねちっこい)考え方を知るだろうし、物理学者が科学哲学についてダメ出ししているうちに哲学者めいてくるのも目撃する。『主役はダーク』とあわせて読めば、宇宙物理学の最先端が「哲学」めいていることも分かりさらに興味深い。
 なお、本書では追究されないが、科学哲学が社会における意思決定に役立つかどうかという問題もある。これについては、著者(科学哲学者)らが編んだ『科学技術をよく考える』が4月に出たばかり。一連の著述をひとつながりのものとして捉えたい。
    ◇
 『主役は…』毎日新聞社・1785円/すとう・やすし 58年生まれ。東京大学教授(宇宙物理学)▽『科学を語る…』河出ブックス・1575円/いせだ・てつじ 68年生まれ。京都大学准教授(科学哲学)

関連記事

ページトップへ戻る