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神は死んだ [著]ロン・カリー・ジュニア

[評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)

[掲載]2013年06月30日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■絶望の極点で希望は紡げるか

 ショッキングな題名だが、内容そのままなのだ。表題作で、本当に「神」は死ぬ。スーダンのダルフール地方の難民キャンプ。ディンカ族の若い女に姿を変えた「神」は、理由あって弟の行方を探している。彼女は「神」なのだが全知全能ではない。むしろ人間たちの蛮行に対して、ほとんど何も手を出せず、ただ見守ることしか出来ない。紛争は熾烈(しれつ)を極めており、たくさんの罪なき人々が動物のように命を奪われている。
 スーダンを訪れていたブッシュ政権のコリン・パウエル国務長官(実名で登場する)は、偶然「神」と出会い、彼の人生に隠された最大の後悔を贖罪(しょくざい)するために、自らの立場をなげうって、彼女を助けようとするのだが……。
 ロン・カリー・ジュニアの処女作は、このようなひどく奇妙で哀切な物語から始まる。続く各編も、いずれも突飛(とっぴ)なアイデアと醒(さ)めたリアリズムが混交する、不思議な感触を持っている。当然のことながら「神の死」は人間たちに甚大な影響を及ぼした。信仰の対象を喪(うしな)った聖職者は死を選び(「橋」)、ゲームめいた集団自殺が横行する(「小春日和」)。「神を食べた犬へのインタビュー」には、死んだ「神」の肉を食べたせいでいくぶんか「神」になってしまった犬が登場する。
 9編は人物や時系列が緩やかに繋(つな)がっており、「神の死後」をめぐるSF的なヴィジョンが展開する。語りも一作ごとに工夫が凝らされており、重いテーマを考え込む隙を与えず最後まで読み切らせてしまう。だが、それこそが作者の狙いなのだ。
 全編を読了してしばらく経ち、いま私はこの書評の言葉を連ねながら、そこに何が描かれていたのかを思い出し戦慄(せんりつ)する。神の死んだ世界。いかにして絶望の極点にありながら希望を紡げるのか。これは宗教の問題ではない。現代を生きるわれわれ全員に突きつけられた問いである。
    ◇
 藤井光訳、白水社・2310円/Ron Currie Jr. 75年米生まれ。本書でニューヨーク公立図書館若獅子賞。

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