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友罪 [著]薬丸岳

[評者]角幡唯介(ノンフィクション作家・探検家)

[掲載]2013年07月07日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■友達が、あの少年犯罪の犯人?

 重い課題を突きつけられて思わず言葉を失った。
 ある町工場に益田と鈴木という2人の若者が同時に入社する。鈴木には独特の近づきにくさがあり誰も彼とは打ち解けない。だが1人、益田だけは鈴木との距離を縮め、鈴木もまたそんな益田に心を開くようになる。そして2人の間では友情が育まれていくのだが、しかしふとしたことで益田に恐ろしい疑念がわき上がる。鈴木はメディアを騒がせた、あの少年犯罪の犯人なのではないか? 考えてみるといくつもの不審な証拠が思い出された。そしてどうも事件の犯人は実社会に復帰しているらしい。疑いを深めた益田は、疑念を打ち消したい一心で独自の調査を開始する。
 この小説があの神戸で起きた猟奇的な児童殺人をモチーフにしていることは明らかだ。過去に苦しむ事件の犯人。同時に他の登場人物たちも彼の苦悩と共振する、消してしまいたい過去を抱えている。中学時代の同級生の自殺が今も重くのしかかる主人公。そして流れ着くように工場の事務員に収まった元AV女優。
 過去と今が激しく交錯し物語は突き進む。互いの過去を隠したまま、かけがえのない友となり恋人となった今。しかしひた隠しにしてきた忌まわしい過去はいつか表に出る。その時、かけがえのない今は忌まわしい過去を赦(ゆる)すことができるのか。友の罪はあなたにとっても罪なのか。
 伏線や謎の配置によって読ませる小説ではない。読者は登場人物に己を重ね合わせることで共感し、自分がほのかに抱える暗部をのぞき見るような気持ちで読み進め、そして切っ先の砥(と)がれたような鋭い問いを突きつけられ身震いせざるを得なくなるのだ。
 人間は過去から逃れることはできない。しかし友なら……理解することはできるはずだ。それでも赦すことができないのはなぜなのか。ラストの文章が心に響いた。
    ◇
 集英社・1785円/やくまる・がく 69年生まれ。作家。05年に『天使のナイフ』で江戸川乱歩賞。『逃走』など。

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