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「『グレート・ギャツビー』の世界―ダークブルーの夢」書評 夢追うアメリカの哀しい宿命

評者: 田中優子 / 朝⽇新聞掲載:2013年07月07日
『グレート・ギャツビー』の世界 ダークブルーの夢 著者:宮脇 俊文 出版社:青土社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784791767052
発売⽇:
サイズ: 20cm/196p

『グレート・ギャツビー』の世界―ダークブルーの夢 [著]宮脇俊文

 ニューヨークの金持ちたちの華やかな世界。映画で上映中の「華麗なるギャツビー」にはそういう印象がある。しかし小説『グレート・ギャツビー』には、どこかやりきれない暗さがあるのだ。その理由を、本書は明確に指し示してくれる。ミネソタの底冷えする寒さから始まる。「なぜ?」と思いながら引き込まれる。実は語り手であるニックも登場人物のギャツビーも、アメリカ中西部の出身なのである。副題である「ダークブルー」は、彼らが夢を育んだ中西部の夜空のこと。そしてその夢を抱いて大都会に出て行く。そこは金銭的富裕が価値をもつ世界だ。
 小説では、砂ぼこり舞う灰の谷に暮らす自動車修理工が、ブラックホールのように読者を暗黒に吸い込む。デイジーはその場所で夫の愛人をひき殺し、ギャツビーはその修理工に撃ち殺される。
 とめどなく夢を追い続ける。著者はそれをアメリカの宿命だという。その宿命が哀(かな)しく思える切ない本である。
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 青土社・1680円