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□(しかく) [著]阿部和重

[評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)

[掲載]2013年07月14日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■ホラー映画への偏愛が凝集

 阿部和重という小説家が著した、最も奇抜な小説だろう。作品ごとにスタイルや文体を一変させる、周到な準備と緻密(ちみつ)な設計に基づく凝りに凝った作風で知られる阿部は、今回あえて「何も決めないで書く」という一種の挑戦(?)をしたのだという。その結果、本書は当代きってのクセ者作家の根の部分と素の部分を鮮やかに晒(さら)け出しつつ、異様なムードと謎だらけの展開で読者をラストまで強引に引きずってゆく、ジャンル分け困難な問題作となった。
 春夏秋冬に分かれた4話構成である。主人公「水垣鉄四」のところに、苦手に思いながらも関係の切れない得体(えたい)の知れない男「烏谷青磁」からある依頼(というか命令)がもたらされる。菜の花を食べたら「角貝ササミ」が死んでしまった。蘇(よみがえ)らせるには「まずは三六五日以内に、特定の四つのパーツをすべてそろえなければならない」。「角貝ササミ」が何者であるのかとか、蘇りとはどういうことなのかとか、なぜ四つのパーツなのかとかは一切説明されない。つまりほとんどわけがわからないのだが、かくして二人の調査が始まる。
 スピーディーな文章に乗せられて読み進んでいくと、やがてこの小説の世界が、われわれの現実とは似て非なる、カニバリスト(人肉喰〈くら〉い)たちが跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)し、超常現象が頻発し、残虐な暴力と非道な殺人が横行する、まったくもって常軌を逸した状況にあることが明らかになってくる。
 「水垣鉄四」は「烏谷青磁」に強制され、パーツの獲得に奔走する。第1は目、第2は歯、第3は耳、第4は臍(へそ)。どれを奪うのも命懸け。荒唐無稽な舞台が待ち受けている(特に「夏」のサイコ歯医者の場面は秀逸)。そして四つのパーツがついに揃(そろ)った時……。
 無類の映画狂でもある作者のホラー映画への偏愛が凝集した、不気味だが痛快、シュールだが妙にリアルなダークファンタジーである。
    ◇
 リトルモア・1470円/あべ・かずしげ 68年生まれ。作家。『グランド・フィナーレ』で芥川賞。『ピストルズ』で谷崎賞。

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