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フランシス・バーネット「白い人びと」書評 死は虚無ではなく目覚めなのだ

評者: 小野正嗣 / 朝⽇新聞掲載:2013年07月14日
白い人びと ほか短篇とエッセー (大人の本棚) 著者:フランシス・バーネット 出版社:みすず書房 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784622085072
発売⽇:
サイズ: 20cm/191p

白い人びと―ほか短篇とエッセー [著]フランシス・バーネット

 子供に大人には見えないものが見えるのは、生まれる前の、だからまだ生が死と未分化な状態の記憶が残っているからなのか。表題作「白い人びと」の主人公イゾベルは、小さな子供さながら死を現実的に想像できない。
 スコットランドの辺鄙(へんぴ)な古城に暮らす彼女は、幼いころから折々目にしてきた〈白い人びと〉が周囲の者には見えていないことに気づく。作家ヘクターと結ばれ、〈白い人びと〉と初めて出会ったヒースの茂る丘の中腹を愛する夫と歩くとき、イゾベルは不意に、圧倒的な歓喜と美に光輝く「何ものにも捉われない自在さ」の感覚に包まれる。
 死とは恐ろしい虚無ではなく目覚めなのだと悟るイゾベルには、児童文学の名作『小公女』や『小公子』の作者として知られるバーネットの死生観が反映されているのだろう。生と死がたがいを否定しない本書の世界においては、鳥も麦粒も庭の草花もみな等しく美しい魂を持ち、人の魂と親しげに交流する。
    ◇
 中村妙子訳、みすず書房・2940円