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私たちはなぜ税金を納めるのか―租税の経済思想史 [著]諸富徹

[評者]原真人(本社編集委員)

[掲載]2013年07月21日

[ジャンル]政治

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■税制の歴史から国家を考える

 日本の税収は経済規模に比べて小さく、先進国最小の政府だ。そして日本は最も増税できない国である。消費税率5%は先進国で際だって低い。世界最速で高齢化が進み、社会保障費を一番必要とするこの国で、増税はなぜこれほど避けられてきたのか。
 欧州では、国家は王のものでなく、市民によって担われるべきだという文脈で税が生まれた。米国の所得税も下からの運動が始まりだ。一方、明治期に政府が欧米税制を輸入した日本の税は、市民にとって「仕方なく応じるもの」にすぎなかった。当然、みずから国家を創るために必要な財源を担おうという感覚は育たない。増税は常に市民の「負担」だったのである。
 それでも戦後財政が維持できたのは右肩上がり経済のおかげだ。税収が自然に増え、正味増税せずにすんだ。ところがいま直面する人口減少、超高齢化のもとでは、そうはいかない。積み上がる巨額の財政赤字は、もはや増税なしに解決できなくなった。
 租税は国家が市民の生命と財産を保護することへの対価だと哲学者のホッブズやロックは考えた。本書がそうした17世紀からの租税思想史をたどるのは、そこから考え直そうというメッセージだ。
 そして近未来の税制をめぐる著者の問いかけはいっそう深く大きく、射程が長い。
 グローバル化が進み、巨大な国際金融は国家でさえ制御できなくなった。多国籍企業は租税回避のためにやすやすと国境を乗り越えてしまう。この時代に税とは何か、国家とは何かと改めて問うなら新たな思考実験が必要になる。
 本書が提案するグローバルな共通課税権力の樹立、いわば「世界国税庁」構想は夢物語と言ってもいい。だがユーロ危機を機に欧州連合が決めた、国境ごえの投機取引にかける超国家的な税に、著者は一つの可能性を見いだす。
 「税」と国家、市民について考えるのに必読の書だ。
    ◇
 新潮選書・1470円 もろとみ・とおる 68年生まれ。京大教授(財政学)、『思考のフロンティア 環境』など。

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