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対話集 原田正純の遺言 [編]朝日新聞西部本社/原田正純の道 [著]佐高信

[評者]田中優子(法政大学教授・近世比較文化)

[掲載]2013年07月28日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■水俣病患者に学んだ半世紀

 福島原発事故によって人も社会も海も被害を受けた。いまだ何も乗り越えられていない。にもかかわらず再稼働が次々と審査申請された。こういう時こそ、水俣を思い起こさなくてはならないだろう。
 原田正純は二〇一二年六月に亡くなるまで、医師として五十三年間にわたって水俣病患者に寄り添い続けた。『原田正純の遺言』は、亡くなる直前までおこなわれた対談を集めたものだ。またその生い立ちや研究の過程、そしてその人柄については『原田正純の道』がじつに丁寧に描いている。この両方を同時に読むことをおすすめする。
 水俣を医学からのみ見ている人ではなかった。「圧倒的に被害者のほうが弱いんですからね。中立ってことは『ほとんど何もせん』ってことですよね。『何もせん』ってことは結果的に、加害者に加担しているわけです」「医学も必要だけれども、この人をどうやって救済するかというのは、きわめて政治的、行政的問題でしょう?」。これは、原発に直面している私たちこそが、問われている姿勢だ。
 ほとんどの生物が遭遇しなかった大量の有機水銀が体内に入ってきたとき、遺伝子はそれを処理できなかったばかりか、「胎盤は毒を通さない」という医学の常識に反して胎児性水俣病が発生した。原田はこれを「人類が初めて経験したこと」だと語る。「教科書はない。……彼らから学ぶしかな」いと、原田は患者の家に通いつめた。この二冊の本は、原田が患者たちから学び続けた記録だとも言える。
 三池炭塵(たんじん)爆発、カネミ油症事件、土呂久砒素(とろくひそ)公害にも関わり、それも対談に収録されている。田中正造の「谷中学」にちなんで、あらゆる分野を巻き込んだ「水俣学」を確立した。それは今も継承されている。ここから「福島学」が生まれる可能性がある。
 人類が直面した危機に、笑顔を絶やさずまっすぐ向き合い続けた人だった。
    ◇
 『原田正純の遺言』岩波書店・2310円、『原田正純の道』毎日新聞社・1890円/さたか・まこと 45年生まれ。

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