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ふたごと教育 [編]東京大学教育学部付属中等教育学校

[評者]川端裕人(作家)

[掲載]2013年07月28日

[ジャンル]教育

表紙画像

■遺伝と「個の確立」を問う研究

 東京大学教育学部付属中等教育学校は「ふたごの学校」として知られる。中高一貫の課程に「ふたご枠」があり、60年間で900組が学んだ。
 ふたごの研究は世界的に注目されている。「双生児法」という手法では、遺伝的にほぼ完全に等しい一卵性双生児と平均的に50%等しい二卵性双生児を比較することで、人間の性格や能力などに遺伝と環境がどんな割合で影響するか調べる。身長体重などの身体的特徴は8割、学業成績など知的能力は5割前後が遺伝で説明できるという。
 最近では、特定の遺伝子と特定の気質が対応づけられた例もあり「この遺伝子を持つ人はこう」と決めつけられる未来を想像してしまう。本当にそうなのか。今、我々は新たな知識を受け入れる足腰を鍛えなければならない。
 評者の見立てでは本書がまさに役に立つ。多くの紙幅が割かれているのは個々のふたごペアの成長について。エピソード的で、科学というより「ごく普通の教育活動を通じた研究」だ。ふたごであること、その保護者であること、教員であることなど、様々な立場を概観する章は「ふたごの学校」の面目躍如。こと遺伝要因が重く語られそうな世で、発端の研究対象であるふたごを個々人として丹念に見ると違った視野が広がる。
 ふたごが多くいるこの学校は「自分とは何か、人間が成長するということはどういうことか……『個の確立』とは何かを問い続けている」と述べる部分で膝(ひざ)を打った。これは、遺伝子とその表現型が解明される時代の「個の確立」についてのヒントではないか。単純化して言えば、遺伝的な差異を所与としても、個性は環境との交互作用で多彩になりうると確信させられる。
 なお双生児法については本書内の概説より『遺伝マインド』(安藤寿康、有斐閣)が詳しいので併読を推奨。ふたご研究が我々に見せる問題系がより明確になる。
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 東京大学出版会・2520円/同校は48年創設。53年度から毎年約20組の双生児を募集し、教育に関わる研究を実施。

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