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戦場の軍法会議―日本兵はなぜ処刑されたのか [著]NHK取材班、北博昭

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2013年08月04日

[ジャンル]歴史 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■形骸化していた「法の正義」

 昭和史、とくに太平洋戦争の内実を継承するのに、NHKのディレクターの果たす役割は大きい。これまでも中田整一、片島紀男らは資料発掘や新視点などを提示してきたし、定年退局後も幾つかの関連の著作を発表している。
 この書は、その系譜に連なるといっていいが、陸海軍内部の軍法会議のからくり、法務官と死刑宣告を受け処刑された上等機関兵の関係者などを丹念に訪ね歩いて戦争と司法のあり方を問うた質の高い書である。放送関係者の筆調は映像的かつ表層的だが、戦争など露ほども知らない世代が、協力者の一橋大の吉田裕教授や近代史研究者の北博昭氏の助言や資料によって戦争の根源的な矛盾に気づいていく様は説得力がある。
 海軍法務官の馬塲(ばば)東作の残した文書、そこにひそむ「法の正義」が形骸化していた事実。正直にいえば法務官の書類は未(いま)だ隠蔽(いんぺい)されているケースが多い。北氏の保管する資料をもとに「真実」を明かしていくのだが、そこにこれだけの壁とこれほどの国家の論理があるのかと驚かされる。悩める法務官の良心が、「法」の名のもとに行われたゲリラ殺害、一般兵士への処刑などの告白につながるのだ。
 取材班の1人は書く。無謀な作戦を実行しても責任をとらない軍、その責任を末端の兵士に押しつけることに加担する法務官、「こうした事態を招くことを知りながらも司法と軍の一体化を許してしまった国の横暴」、このメカニズムははたして克服されたのか。敵前逃亡の名のもとに日本軍に殺害された日本兵、彼らの家族や縁者はどのような生き方を強要されたのか。一族が本籍を移すエピソードに暗然とさせられ、この国の怖さが感じられる。
 戦後の戦争責任を問う裁判で、司法は常に国民に受忍論を説いてきた。その裁判官に元法務官が多く、しかも彼らが戦後の司法界の中枢にいたという事実、その指摘は重い。
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 NHK出版・1995円/NHK取材班=小山大祐(だいすけ)(68年生まれ)ほか。きた・ひろあき 42年生まれ。近代史研究者。

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