書評・最新書評

羽―進化が生みだした自然の奇跡 [著]ソーア・ハンソン

[評者]荒俣宏(作家)

[掲載]2013年08月04日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■謎だらけ、W杯より熾烈な論戦

 鳥はなぜ飛ぶのか。この問いから出発した人間は飛行機を発明した。同様にして、鳥がどのようにして羽と翼を獲得したかという問いに答えが出せたら、進化史最大の謎のひとつは解ける。だが、こちらはまだ模索中なのである。
 始祖鳥の化石が発見され、近年は中国で羽毛のある恐竜化石が続々とみつかり、鳥は恐竜から出たというのが定説化しつつあるが、BAND派(鳥は恐竜ではない、の略語)と称する抵抗集団がまだバトルをやめていない。最大の問題は、軸が中空になっている鳥の羽が平たい恐竜の鱗(うろこ)から進化した理由が説明できない点にある。本書はその熾烈(しれつ)な仮説合戦を熱く伝えており、サッカーのワールドカップ決勝戦を見るより興奮できる。
 単に飛ぶだけなら他の脊椎(せきつい)動物も飛ぶ。しかし鳥以外はすべて、鱗と同じ起源をもつ皮膚の膜を使って飛ぶのだ。この問題を巡っては、地上派と樹上派が目下激闘を繰り広げている。地上派は、地面を二足で走り回りジャンプすることから飛行の進化は始まった、と主張する。いっぽう樹上派は木や崖の上から落下し滑空する体験から始まったと反論するのだが、地上派は飛べない鳥が坂を駆け上がる際に翼をはばたいて登る事実を発見、二足歩行していた鳥の祖先が高速で坂を駆け上がるとき、斜面にしっかり足を押しつけられるよう翼を使ったと考えついた。F1の車に水平翼が付いているのと同じ理由だ。かくて鳥は、飛ぶ前から翼を持っていた可能性が浮上する。だとすれば羽は飛ぶために生まれたのではない?
 著者はハヤブサと一緒に空中飛行しながら羽の謎を研究する人をはじめ、フウチョウ(極楽鳥)の羽で着飾るニューギニアの男たち、羽の色や模様の意味、イカロス神話にまで探究の枠を広げる。
 一本の羽を「自然の奇跡」と呼ぶ帯のキャッチコピーがけっして誇張ではないことを納得させる快著だ。
    ◇
 黒沢令子訳、白揚社・2730円/Thor Hanson 保全生物学者。米スウィッツァー財団環境研究フェロー。

関連記事

ページトップへ戻る