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「メディアとしての紙の文化史」 製紙技術をめぐる発見満載

評者: 田中優子 / 朝⽇新聞掲載:2013年08月04日
メディアとしての紙の文化史 著者:ローター・ミュラー 出版社:東洋書林 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784887218130
発売⽇:
サイズ: 22cm/401p

メディアとしての紙の文化史 [著]ローター・ミュラー

 中国起源の紙はアジアで広まり、パピルスはヨーロッパで広まったと思っていた。しかしそうではなく、パピルスは消え去り、紙が世界を席巻したという。集積された語り物である『千夜一夜物語』も紙に記録されて集められたのだが、紙が次第に西へ伝わってゆく過程で、紙を語りつつ成立したのだという。
 書物は紙と印刷術の組み合わせで発展したと思っていたが、その前の写本も紙の出現によって大いに効率が増したのだという。紙の普及は本だけでなく、木版やそれを使ったトランプの出現も促したし、書類のやりとりによる統治ももたらした。また、複式簿記による経済合理性も、紙がデータを流通させ過ぎてしまうことが原因だった。データ管理が複式簿記を産んだのである。印刷技術について書かれた本は多いが、製紙技術についてこれほど詳しく書かれた本は珍しい。ヨーロッパの製紙がぼろ布をふんだんに使ったものだったとは知らなかった。発見満載の本である。
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 三谷武司訳、東洋書林・4725円