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消費税日記―検証 増税786日の攻防 [著]伊藤裕香子

[評者]水野和夫(日本大学教授・経済学)

[掲載]2013年08月11日

[ジャンル]経済

表紙画像

■「最強の根拠」は財務省の発案

 野田佳彦内閣が消費税増税法を成立させて、昨日(10日)でちょうど1年たった。本書は2010年6月17日、菅直人総理(当時)の参院選での消費税10%発言から法案成立までの786日間を追った迫真のドキュメンタリーである。そして、行間に様々な歴史の教訓が隠されており、とても奥深い。
 本書を読んですぐに浮かんだのは、ビスマルクの「政治は可能性の芸術」である。1年1カ月だけ重なって民主、自民両党のトップだった野田と谷垣禎一が、多くの人の「増税の前にやることがある」との反対意見を押さえて成立させたのは、政治的現実のなかでまさに限界ギリギリまで可能性を追求したからだ。
 しかし、第4章の初め、いつから野田前総理が「政治生命を懸けて」増税を決意するようになったかというあたりから、本当に「可能性の芸術」だったのか疑問に思えてきた。09年、野田が財務副大臣に就く直前に著した『民主の敵』(新潮新書)には「消費税」の言葉は2カ所だけで、10年6月以降の財務相時代も、記者会見での発言で判断する限り、「他人事(ひとごと)」のようだったと指摘している。
 加えて、野田がマニフェストに書いていない消費税増税に踏み切る「最強の根拠」としたのが、財務省が鳩山総理時代の政府税制調査会への諮問文に「さらっと、忍び込ませた」11年度中の増税法案提出をうたう条項だった。そうなると、「可能性の芸術」を追求したのは野田ではなく、財務省ということになる。
 ここまでくるとブルクハルトの世界である。フランス革命で「自由のための専制」が正当化され、王政の比でない恐怖政治がおこなわれた状況を、この19世紀のスイス人は「歴史の危機」(危機が次の大きな危機を呼ぶ状況)という。今の日本では「財政再建のための国土強靱(きょうじん)化計画」という理屈が「可能性の芸術」を吹き飛ばすかもしれない。
    ◇
 プレジデント社・1785円/いとう・ゆかこ 朝日新聞記者。現西部本社報道センター次長(経済担当)。

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