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「空気」の構造―日本人はなぜ決められないのか [著]池田信夫

[評者]原真人(本社編集委員)

[掲載]2013年08月18日

[ジャンル]社会

表紙画像

■タコツボ組織を変えるとき

 仲間内の暗黙の合意をこわすような発言をすれば「空気を読め」とたしなめられる。日本社会のそんな特質を初めて「空気」という言葉でとらえたのは評論家・山本七平の『「空気」の研究』だった。
 あれから40年近くたって、空気はあいかわらず私たちの社会を支配しているらしい。
 大震災や原発問題で迷走する政府。消費増税でなかなか決められない政治。いずれも根本原因はそこにある、と本書は指摘する。
 空気を読んで組織内の調和を保ち、やる気や忠誠心を維持する。それは日本社会の強みでもあったが、空気そのものが絶対権威となって論理的な主張や反論を抑えこんでしまう愚も繰り返されてきた。
 タコツボ組織の集合体である日本企業でもそれは同じだ。タコツボ内の空気をこわさぬよう終身雇用や長期安定取引が大事にされ、強すぎるリーダーは嫌われる。そこでタコツボそのものを破壊するような大変革などできない。
 本書は、今こそ組織の存続ばかりを考える同質な閉じた企業社会を開放せよ、デフレの一因でもある日本的雇用を捨て人本主義を卒業せよ、ふつうの資本主義に戻れ、と提言する。その主張には当然、反対論もあるだろう。
 ただ著者は単純な市場至上主義だけでそう言っているわけではない。グローバル経済の荒波にもまれる日本企業は、ただでさえ空気を共有できる正社員を減らし、タコツボに入れない非正社員を増やさざるをえなくなっている。これでは内部者と外部者の格差がますます広がってしまう。そう危ぶむからなのだ。
 著者はネット言論界を中心に、世の空気に水を差す論争を仕掛けてきた「闘論家」である。けっして空気にしばられることのなかった著者が、なぜ今こういう本を書こうと思ったのかが興味深い。論争だけではなかなか変えられない日本社会に、少しいらだちを募らせたのだろうか。
    ◇
 白水社・1680円/いけだ・のぶお 53年生まれ。アゴラ研究所所長。『電波利権』など。

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