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「アメリカ経済財政史―1929-2009」書評 建国理念の実現は中間層の肩に

評者: 水野和夫 / 朝⽇新聞掲載:2013年08月18日
アメリカ経済財政史1929−2009 建国理念に導かれた政策と発展動力 (MINERVA人文・社会科学叢書) 著者:室山 義正 出版社:ミネルヴァ書房 ジャンル:経済

ISBN: 9784623066032
発売⽇: 2013/05/01
サイズ: 22cm/816p

アメリカ経済財政史―1929-2009 [著]室山義正

 E・H・カーの「歴史は、現在と過去との対話である」という定義をうけ、清水幾太郎は「現在が未来へ食い込むにつれて、過去はその姿を新しくし、その意味を変じて行く」という。近代の本質を理解するには中世の理解が不可欠であるように、米国の建国当時の歴史を理解しなくては、米国の時代だった20世紀を理解することはできず、21世紀も見通せない。本書を読んでそう確信した。
 米建国時の理念である「マニフェスト・デスティニー(明白な天命)」それ自体に「自由と民主主義を世界に拡大し伝搬していく」使命が内包され、第2次世界大戦とソ連解体で世界の普遍原理になったかにみえた。しかし9・11以降「テロとの戦い」が長期化するに及んで、グローバリゼーションの意味がどう変じていくかを見極めることが21世紀を見通す鍵となる。
 また本書は、経済政策と財政政策を重層的に関連づけながら米国の経済構造および所得分配構造の変遷を解き明かしている。
 民主党の福祉重視のリベラルな政策から共和党の保守主義への転換が所得格差の拡大をもたらしたというのが通説であるが、財政関連データはこの見解を支持していない。人的資源支出(社会保障・福祉・教育など)が国防支出を下回っていたのは1970年までで、71年に両者の支出規模が逆転し、その差が開いていった。
 保守主義の時代では通常、人的資源支出は切り詰められそうだが、現実には保守化した白人高齢者を味方につけるために、どの政権も社会保障支出を増やしたのである。
 同時に、若者や母子家庭から高齢者へ所得移転する形で「貧困の配分」も実施されたので、中間層は没落した。
 米建国の理念は、21世紀も指針であり続けるのか。まさにオバマ大統領のいう「中間層の広い双肩にかかっている」(第2期就任演説)。
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 ミネルヴァ書房・1万500円/むろやま・よしまさ 49年生まれ。拓殖大学教授(地方政治行政)。『米国の再生』