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犬心 [著]伊藤比呂美

[評者]水無田気流(詩人・社会学者)

[掲載]2013年08月18日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■むき出しに展開する生老病死

 かつて子育てエッセーというジャンルを切り開いた詩人・伊藤比呂美が、今度はペットロス・エッセーを書きあげた。14年間、カリフォルニアでともに暮らしたジャーマン・シェパードのタケ、その最期の1年間の記録である。
 とはいえ、これは感涙を誘う愛犬物語などではない。そこにあるのは、むき出しに展開する生老病死。かつて強く誇り高かったタケが徐々に弱り、好きなものに興味を失い、やがて肛門(こうもん)の筋力まで失って粗相をするようになる様はなんともせつない。伊藤の実父もまた要介護で、タケより少し前に亡くなってしまう。浮き彫りになるのは、人間の老いへの動揺に対して老いても変わらぬ「犬心」。だが、死は確実に日常を侵食して行く。
 動物病院で、あるいは遺骨の引き取りの際に、伊藤は「タケの母」を名乗る。ふと子育て時代を思い出すが、今回は介護し看取(みと)る母だ。一方、当時作品に書かれた長女カノコさんは出産し、伊藤は祖母に。逞(たくま)しい命の騒乱記は続く。
    ◇
 文芸春秋・1628円

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