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『青鞜』の冒険―女が集まって雑誌をつくるということ [著]森まゆみ

[評者]田中優子(法政大学教授・近世比較文化)

[掲載]2013年08月25日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■面白さ・難しさ、「編集」から迫る

 平塚らいてうが中心となり、日本で初めて女性たちの手によって刊行された雑誌『青鞜』(一九一一年創刊)を、編集という側面から徹底的に追った本である。表紙、目次、編集後記を丹念にみつめ、編集にたずさわった人、事務や営業に関わった人、資金のこと、もちろんその内容、執筆者たちの生き方と考え方、そして校正のずさんさに至るまで、眼(め)の前に浮かび上がるかのように書かれていて、実に面白い。
 著者も女性たちで『谷中・根津・千駄木』(通称、谷根千〈やねせん〉)を立ち上げ、二十年以上、その編集を継続してきた。『青鞜』も『谷根千』も大手出版社が出す雑誌ではなく、同人誌でもない。執筆者を探し、自らも執筆し、広告をとり、読者を拡(ひろ)げ、書店をめぐって出し続けた雑誌である。だからこそ、著者はその難しさも面白さもわかっている。『青鞜』が全く違う観点から見えて、数々の発見がある。
 編集者たちが走り回った明治大正の東京が立ち現れてくる。上野、谷中、染井(駒込)、護国寺に囲まれた範囲に『青鞜』編集部は転々とし、漱石や一葉の生きた時空と重なりながら、女性たちがそれぞれの芸術的才能を開花させることを目的に活動した。『青鞜』は文芸誌であるとともに、女性も自らの能力と努力で自信をもって生きていくことができる、というメッセージを送り続けたのである。政治雑誌ではなく、女性たちが言葉をもつ場を作ったのだった。そこには全国から女性たちが訪れ手紙が集まった。『谷根千』もまた、地域を観光地としてではなく、暮らす町としてその価値を見直す全国の動きの先駆となった。雑誌の刊行とはほんらい運動である。その果たした役割の大きさを改めて考えさせられる。
 著者は自分の経験から、らいてうの編集努力の限界や、エリート女性特有の考え方への批判もして、容赦が無い。それもまた魅力のひとつだ。
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 平凡社・1995円/もり・まゆみ 54年生まれ。地域雑誌『谷中・根津・千駄木』が09年に終刊するまで編集人。

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