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ペンギン・ペディア [著]デイビッド・サロモン

[評者]川端裕人(作家)

[掲載]2013年08月25日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■全種を撮影、資料性も「お見事」

 日本の動物園や水族館でのペンギン飼育数は世界一。ペンギン好きが多いとされる日本で、この写真集の翻訳を歓迎しつつ「してやられた!」と思うファンも多いだろう。評者もその一人だ。
 アメリカ・ダラスの不動産業者がペンギンに魅せられ、南極、亜南極、南米大陸、ガラパゴス諸島、アフリカ、ニュージーランド……世界各地の棲息(せいそく)地に出かけ、ペンギン全種の撮影に成功した。日本にも、藤原幸一、中村庸夫、両氏ら全種の作品集を出した写真家がおり、写真の出来栄えでいえば、それらの方が上だと評者は感じるが、本書のオリジナリティーはタイトルに示されるように、ペンギン事典的な資料性にも富むところだ。
 原著が出版された2011年時点での研究を踏まえ、各種の特徴・行動・生活史について詳しく述べている。論文ごとに多少ある違い(例えば、抱卵日数や遊泳速度など)を表にして示すマニアックさ。おまけに各種ごとの研究論文の文献リストも巻末にあり、そこからペンギン研究の森に分け入ることもできる。ここまでやられると、さすがに「お見事」と言わざるを得ない。
 なお、今、大型の水棲(すいせい)動物研究の世界では、体にセンサーを装着させて水の中でのデータを取得するいわゆる「データロギング」が全盛期を迎えつつある。日本の国立極地研究所などが世界的にリードしており、それについては『バイオロギング——「ペンギン目線」の動物行動学』(成山堂書店)が詳しい。
 本書は、一部バイオロギングの成果に触れつつも、まだ記述は薄い。おそらく5年後、10年後に、同種の本が出る時には、多くの定説が書き換えられ、ペンギンの「水の中」での様子が、より生き生きと描かれるだろう。その時は、日本の研究者による成果が多く引用されることになるはずで、できれば日本の著者によるものを読みたいとも思うのだ。
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 出原速夫・菱沼裕子訳、河出書房新社・3990円/David Salomon 米国出身。不動産業の傍ら写真家としても活動。

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